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複雑・ファジー小説
- Re: 双子~モノクロ~ ( No.6 )
- 日時: 2011/03/07 17:32
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: 3HjnwYLE)
#1
——この出来事は、昔のことでもありながら、未来のことでもあった——
「あ…、雨」
7月14日。
私たちは、近所の雑貨屋から出て来たころだった。
外にしとしと、大きな水の粒が落ちてきた。
手に持った小さなバックは雑貨でふくらみ、少し重く感じた。
「降ってきたね」
妹が呟く。
私のたった一人の信頼できる人。愛しい人。
その声は、少し嬉しそうだった。
私達には高校生の兄がいる。両親は居ない。家に帰りたくない。
——あの暴力男が居るからだ。
暴力男とは兄のこと。兄は、私達に暴力を振るう。無造作に。
私達には罪はない。何で——。
学校の先生なんかは話も聞いてくれないし、第一、話す気もない。
それが現実だ。
雑貨屋に来たのも、兄から逃げるため。
私達は、雨がやむまで雨宿りすることにした。
妹が、高い位置で二つに束ねた茶色の髪を揺らして、こちらを振り向いた。
由紀が笑った……。
それは、久しぶりに見せてくれた笑顔だった。
疲労、ストレス、怒り、諦め。
いろいろな気持ちがこもった、醜い笑顔だった。
私も醜い顔で微笑んだ。
「あ……」
そうしているうちに、雲が切れ、日の光が差し込んだ。夏らしい、清々しい青空だった。
遠くに虹が見える。少し残った雨の匂いが心地よい。
妹が小さく、とても小さく呟いた。
「ずっと、ずっと雨ならいいのにな…」
「え?」
「ううん、帰ろっか…」
由紀は顔を曇らせ、うつむいて歩き出した。
私はその背中を追いかけ、妹の小さな幼い手を、同じくらいの手で包んだ。
妹は、私の顔を見ると、今度は無理した顔で、少し笑った。
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