複雑・ファジー小説
- Re: キリフダ ( No.10 )
- 日時: 2011/06/22 07:40
- 名前: モンブラン (ID: Oof0JpPa)
第八話『動向』
一方この作戦を提案した安部信也は、現在島の北(ホールは南)にある海岸にいた。
真っ白な砂浜に、薄いブルーの海水が、押しては返す。
彼の堕天使“ボティス”の能力は、『獲得ポイントに“参加者の数”の三分の一のポイントが追加される』というものなのだが、彼はその『力』を有意義に使うつもりは一切なかった。
自分のグループの他の人間は全て捕まった。
それも当然か。鬼が来たときに大声で周りに伝えるということは、それだけ鬼にも自らの場所を教えていることになるのだから。
最初からこうするつもりだったのだから何の問題も無い。なあに、こんな穴だらけの計略に乗るような馬鹿が減ればそれだけ後の利益に繋がる。
しかし、三で割れない数の時はどうするのだろう。そこは気前よく繰り上げてくれるのだろうか、それともシビアに繰り下げるのか。
どちらにせよ得をするのだ、今そんなことはどうだっていいだろう。
安部は見晴らしのよい海岸を離れ、再び森へと入って行った。
「いやー、しかしだァれもいないねえ、ここは……。」
森へ入った安部と入れ違いに朱炎が海岸に降りてくる。
辺りを見回す様子も無くずんずんと海岸線の方へと進み、潮風の交る風を思い切り吸い込んだ。
両腕をめいっぱい広げ胸を大きく反らすと、今度は背中を大きく丸めて一気に息を吐き出す。
すると、朱炎の動きがそこで止まる。背中を丸めた時に後ろの海岸が見えたのだろうか、後ろを向くと、彼は“ある物”に向けて歩く。
それは“足跡”。つい先ほど安部がつけた、幾つもの足跡である。
それを見た朱炎はしばしほくそ笑むと、その足跡の続くほうへ歩いて行く。
最も今の彼には、安部の企みを暴こうとかそんな事は考えない。
朱炎焔の思考は至って簡単。“とりあえずやってみる”と、“面白そうなものを好む”の二つ、ただそれだけなのだから………。
「まずいぞ……蓮と鋼がバラバラになった!」
「何がどうまずいんだい?あとまずいとこってそこなの?」
「いやだって、蓮の子守役あいつだし「何が子守だ!あいつ今十四歳なんだろ!?いや確かに背は低いさ!俺も最初ガキだと思ったさ!」
文霧と玄雪は先程からずっと、GPSを見つめながらこんな会話をしている。
無論さっきからこんな感じなので、グループの他の人間が既に遠くに行ってしまったことなど知る由もない。
なので、そのグループが鬼に襲われたことももちろん、知らない……。
メインサポーター、ワラキアは、他の数名のサポーターと共にモニターを眺めていた。
「ワラキア殿、現在残った参加者はどれくらいですかな?」
「あと五十五人です、ぺルセスさん。」
白黒の目だけを覆う仮面を着け、髭を蓄えた老人がワラキアに話しかける。どうやら彼はぺルセスというらしい。
「もうそんなに減ったか……ということは十七人捕まった、と。」
こちらの女も仮面を着けている。但し彼女の仮面は蝶の翅を模した煌びやかな物だ。
鬼十人、参加者五十五人。おおよそ五人に一人が鬼に追いかけられる計算となる。
時計の針が進む。今日の“鬼ごっこ”の終了時間まで、あと二時間三十八分となった。
青草はその頃、数少ない木の枝の上に座っていた。
白金と離れ離れになった後、『非力な』彼が鬼から逃れるにはこうするのが一番良いだろう、と判断したのだ。
辺りを見回しても、鬼や他の参加者は見当たらない。
仕方なく、木から木へと移動して他の仲間を、あわよくば白金を、探すことにした。
第八話『動向』 終
P.S.文章に変なところが有ったので修正しました。