複雑・ファジー小説
- Re: キリフダ 登場人物欄更新 ( No.12 )
- 日時: 2011/07/24 17:12
- 名前: モンブラン ◆HlTwbpva6k (ID: FjkXaC4l)
第十話『柱人』
用意周到、というわけだ。
というのも、文霧は当初安部の行方を追っていたが、GPSに示された場所に行っても安部は居なかった。
それは何故なのか、それを調べるついでに、今回は朱炎の所に行ってみたのだ。
そして、持ち主の無いリュックサック。
文霧は確信した。
安部は既にこの事に気付いている。少なくとも、(恐らくはヒント無しで)それに気付けるほど頭の切れる人物だ。
「成程、それでこの減り様か……。」
「もしかしたらあの男、その事も計算づくだったんじゃないか?」
「だろうね。しかしどうしたものか……。」
恐らく、あと一時間半もせずにこのゲームは終了する。
日はまだいくらか高いが、今は初夏。大体午後四時前くらいが妥当だろう。
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その後何の変化も無く、第一ゲーム『鬼ごっこ』は終了し、参加者は全員島の南にあるホールに集められる。
壇上に立ち話を進めるのは、今朝話をしていたメインサポーター、ワラキア。
脱落者は二十五人。第一ゲーム終了規定のほぼぎりぎりの人数だ。
最後に質問が有ったということで、ワラキアから説明が入る。
「ちなみに、現在皆様の獲得したポイントは、全ゲーム終了後に1ポイントにつき十万円で換金することができます。」
ホール内にざわめきが広がる。夕方とはいえ現在の気温はだいぶ高いが、それが更に数度上がったように思えた。
「すげえ……。」
「嘘だろ…。」
「随分な大盤振る舞いね。」
ワラキアはその場を鎮めるかのように、低く静かな声で言う。
「いいえ、本当です。」
それは先程、嘘だろ、と呟いた男に対し向けられたものなのかもしれないが、その一言でホールのざわめきは消え去った。
「では皆さん、第二ゲームは明日行いますので、本日は疲れをゆっくり癒して下さい。」
ホールの地下一階にある生活空間は、まず階段のすぐ左が食堂、非常に湾曲した廊下を少し奥に行った右側に参加者の部屋があった。風呂は各部屋に備え付けられている。
部屋番号は最初に貰った札の番号と同じで、俺は七十二番。廊下は階層をぐるりと一周する造りになっているので、すぐ近くの部屋となる。
朱炎達は風呂に入りに行ったようなので、とりあえず俺も汗を流す事にした。
風呂は大人ひとりが使うにはちょうどいい大きさだった。壁は一面真っ白なタイルが付けられ、それが照明の明かりを反射し輝かんばかりに明るくなっている。
ただ、部屋全体はちょうどよいのに、浴槽はやたら大きい。最も、広い分には困らない。大は小を兼ねるのだから。
脱衣所にはご丁寧に真っ白なタオルまで備え付けられている。ふわふわとした肌触りで、触ると洗剤の香りが部屋いっぱいに広がった。
風呂からあがって着替え食堂に行くと、青草と白金がいた。
どうやら食事はセルフサービスのようだが、二人とも同じような物を食べていた。背の高さを考えると、白金が用意をしたのだろうか。
「あ、そうだ、文霧クン。朱炎が呼んでたよ?八号室に来てほしいってさ。」
思い出したように、白金が言う。
夕食を済ませると、彼女の言うとおり八号室に向かった。
部屋には、朱炎と、玄雪。
玄雪は話す気は無いらしく、奥の椅子に座っている。
「何で呼んだか解るよな、探偵。」
無論、文霧にはその理由が解っていた。
「ああ、お前達の事について、教えてくれるんだろう?」
「正解。」
「単純明快に言うぞ。俺達は“柱人”だ。」
「ハシラビト?」
ハシラビト。聞き慣れない名前だ。
質問しようとしたが、まあ話すだけ話させてみよう。
朱炎はそのまま話を続ける。
「朱雀とか青龍とか、聞いたことあるだろ?俺達は、そういう神様の力をそれぞれ持ってる。」
なんと荒唐無稽な。開いた口が塞がらないような思いだが、もともと彼はそういう性格に見えるし、仕方ないとも思える。
ただ、やはり何かその証左がなければならないだろう。
「それを証明するものは?」
「無いわけじゃ、ない。今からちょっとした芸を見せる。」
すると朱炎は懐から一枚のティッシュを取り出し、親指と人差し指でつまんでひらひらさせる。
「こちらはタネも仕掛けも無いただの紙切れだ。これに一瞬で火を点ける。
三……二……一……ボン!」
ボン!という言葉と共に、ティッシュが燃え盛る。かなり熱いはずだが、朱炎は涼しい顔で目の前の光景を眺めている。
そして、彼が指をパチンと鳴らすと、その火は一瞬にして消えた。
しかし、これではただの手品である。彼の言うとおり、これではちょっとした芸に過ぎない。
「……どだ?すげーだろ?」
「いや、それただの手品だ。」
「はあ、手品…ねえ……。」
朱炎はそのまま下を向くと、奥の椅子に座ってしまった。
「じゃあ、僕のなら信用してもらえるかな?」
突然玄雪が椅子から立ち上がり、水の入ったコップを机のこちら側へ置く。
これも燃えるのかと思ったが、燃えない。
しばらく経つと、大きな音を立ててコップが砕け散る。
水を拭かなくては、と思ったがその必要は無かった。
水だったソレは、完全に凍りついていた。ゴトン、と音と共に、氷は倒れる。
「解ったかい?」
「……いや、その水が過冷却水という可能性もある。」
過冷却水とは、非常にゆっくりと静かに温度を下げて作った水で、これは摂氏零度未満になっても凍らないが、ほんの少しでも刺激を与えるとすぐに凍りつくという性質をもっている。
今凍った水は、先程からこの部屋にあったものだ。もしかしたら、彼が事前にこしらえたものかもしれない……。
俺が水道水で同じことをしてくれ、と頼むと、彼はすぐにやってみせた。
結果は同じだった。
第十話『柱人』 終