複雑・ファジー小説
- Re: キリフダ ( No.5 )
- 日時: 2011/05/04 20:44
- 名前: モンブラン (ID: z2nqgfVA)
第三話『もうひとつの依頼、ほんとうの依頼』
三人の居場所を伝えると、朱炎は満足そうに微笑む。
「で、金はいくらかかる?」
「要らない。」
俺は首を横に振る。
「……何が目的だ?」
その言葉を聞いた朱炎は肩をあげ、腕を左右に広げる。「解らない」というジェスチャーのようだ。
「俺はただ人が居なくなったから探偵に探してほしいと頼みに来ただけだ。何もおかしいところは無いだろ?」
「そうじゃない。依頼してきたまでは良かった。でも三人とも公園やらメイド喫茶やら家の書斎やら、ちょっと探せばすぐ見つかる所にしかいなかった。しかも玄雪雹は「僕もちゃんといたって伝えてくれ」と言ったんだぞ?何を企んでる?」
朱炎はしばし下を向くと天井を見て、大声で笑い出す。
「ハハハハハハ!!流石探偵だよ、君に依頼して良かった!もう出てきていーぞ、おめーら!」
そう言い終わらない内に、物陰から先程会った三人が出てくる。
玄雪が文霧の前に立ち、一礼する。
「文霧正治さん、我々の余興に付き合って頂きありがとうございます。もうひとつ依頼をしてもよろしいでしょうか?」
余興と言われれば確かにそうかもしれない。最も次の依頼は真面目なコトなのだろう。
「ああ、よろしく。」
玄雪が朱炎の方を向くと、朱炎が話し始める。
「二日後、この国の離島であるゲームが行われる。俺たちと共にそのゲームに参加して欲しい。」
「ゲーム?……まあいいさ。報酬はどうなるんだい?」
朱炎は不敵な笑みを浮かべ、口を開く。
「十五年前に四国と本州間の海峡に架けられた橋で起こった死亡事故『瀬戸大橋乗用車転落事故』に関する、我々の持ち得る全情報を提供しよう。」
刹那、文霧の顔が強張る。膝は震え、目が見開かれる。視線が定まらない。冷や汗が頬を伝う。
突如現れた嵐のような頭痛に耐えきれず、俺の意識は精神の底に沈んでいった。
意識が戻った時、俺はソファーに横たわっていた。額に濡れタオルが置かれている。
起きあがると、朱炎がすっとんきょうな声で言う。
「お、息を吹き返したぞ!」
「何言ってるのよ、あんた。気絶してただけでしょ?」
すぐさま白金がツッコミを入れた。傍から見るとなんとなく夫婦漫才のようにも見える。
「で、大丈夫かい?」
「……ああ、大丈夫。まだ頭はくらくらするけどな。」
また気絶すると困るので、ソファーに座っておく事にした。
「『瀬戸大橋乗用車転落事故』。対向車線から乗り出して来た大型トラックと乗用車が激突、乗用車は海へ落下し、乗っていた家族は男児一人を除いて全員死亡………あんたが唯一の生存者だったからな。当時は結構な有名人だったろ?」
朱炎は簡単に言ってくれるが、正直この“発作”はかなりきつい。事故の後数年はほぼ毎日起きていたし、今でも思い出す度にこうなる。
「あの事故は謎が多いことでも知られてるしなぁ……多分、当事者のあんたでも知らない情報がてんこもりだと思うぜ?どうだ、この話乗らないかい?」
確かに……あの時の情報隠蔽は酷かった。もしもそれに関する情報を持っているとすれば、あるいは…………………。
不敵な笑みを浮かべ、俺は朱炎を見つめる。
「了解した、引き受けよう。」
第三話『もうひとつの依頼、ほんとうの依頼』 終