複雑・ファジー小説

Re: キリフダ ( No.7 )
日時: 2011/05/22 20:25
名前: モンブラン (ID: Oof0JpPa)

第五話『始動』

地下は個室に分かれており、それぞれに洗面所と広いバスルームが設置されていた。
食堂もあるようだが、恐らく今日は使わないだろう。
一通り見て回り、ホールを出て港へ足を進める。

この島は、正に『絶海の孤島』であった。
真っ暗になった空と海には、水平線以外の物は全く見えない。
さざ波の音のみが響き渡る海岸は真っ白で、まるで淡く光っているように見えた。
初夏の風が心地よくふいている。


次の日、食事を終えるとホール一階に行く。現在八時三十分なので、もうすぐ鬼ごっこがはじまるだろう。
他の四人と合流して少し経つと、司会者と思われる男性がステージに立つ。

「皆様、おはようございます。私はこのゲームのメインサポーターを務めさせて頂きます、ワラキアと申す者です。以後お見知り置きを。」
お決まりの挨拶を終えると、追加ルールとやらの説明に入る。
鬼はゲーム開始の10分後に動き出す、制限時間が過ぎるとサポーターが参加者を迎えに行く、暴力行為は禁止、堕天使の能力を使いたいときは板を掲げてその堕天使の名前を言えばいい、とのことだ。

「それでは、ソロモンコロシアム第一回戦“鬼ごっこ”、スタートです!」

食料や水、地図は全て背負うタイプのリュックに入っていた。
水は500mlのペットボトル二本。食料は乾パン一缶とサンドイッチが五切れ。合わせると結構な重さだ。肩から掛けるタイプのリュックだったらまず走れないだろう。
地図には、この島の全体が描かれている。
俺たちのいるホールの北と西には崖があり、島の中心辺りには廃村がある。この絶海の孤島に村があるとなると、地下水があったのだろうか。
島の殆どは森に覆われているが、いざ入って見ると陽の光が差し込み明るい森だった。視界が不明瞭でないのはありがたい。

森の中を五人で歩いていると、上空から大きな音が聞こえる。
見上げれば、空には大きなヘリコプターがホバリングをしている。
どうしてこんな場所にヘリコプターが静止しているのか、それを考える間も無く、なんとその中から人が落ちてきた。

その瞬間、ソレが何なのかが解った。ヘリコプターは鬼を乗せていたのだ。
参加者を狙ったわけではないのだろうが、俺達は運悪く鬼の降下場所のすぐ近くに来てしまったらしい。
全速力で森の中を駆け抜ける。とにかく遠くへ行かなくてはならない。
鬼は幸いこちらに気づいていないようで追って来ないので、一度ひらけた場所に出る。

「全員捕まってないよな?」
と言いつつ後ろを振り向くと、青草がいない。
「おい、青草は何処に行った?」

「「「大丈夫でしょ、あいつ飛べるし。」」」

いやちょっと待て。人が飛べるわけがないだろう。
いよいよ頭がおかしいのだろうか、そう思った矢先。

青草と思しき少年がふわふわと浮きながらこちらへやって来た。
そういえば、玄雪の家に行ったときにもドアに氷が付いていたっけ………彼らは何か変な能力でも持っているのだろうか?

「あ、そうだ。お前にはまだ俺らの事教えてなかったけか。……………教えてほしいか?」

第五話『始動』 終