複雑・ファジー小説
- Re: キリフダ ( No.8 )
- 日時: 2011/06/12 20:52
- 名前: モンブラン (ID: Oof0JpPa)
第六話『結託』
何かは解らない。だが、彼等は何かを持っている。そういう勘のようなものが、文霧に対ししきりに警告を送っていた。
ソレを知ってしまうと、開けてはいけない箱を開けてしまうような——。
「あ、ちょっと待って。鬼来たから後で話す。」
俺の前に居た朱炎がそう言って走り出す。後ろを見れば、額に“鬼”と書かれた仮面を着けた二人組がこちらにやってくる。成程、確かに見れば解る“鬼”だ。
ひたすら、森の中を走る。重い荷物を持った相手になかなか追いつけない辺り、荷物をハンデにするつもりは主催者には無いのだろう。
だが、ここで俺はある事に気がつく。
陽光の差し込む森と言うのは、当然ながら明るい。
明るいということは、視界が良好だということだ。
そして、鬼は仮面を着けている。
つまり、このステージは参加者が鬼を見つけやすくする為だけの物ではない。無論、鬼からも参加者が見つけやすいということだ。
しかもここにたっている木々には枝が殆ど無いうえ、低木は全く生えていない。隠れる場所もそうあるわけではないので、必然的に体力勝負となってくる。
なんだか、何かが矛盾しているような……。
鬼を振り切り、俺達は地図にあった廃村に着いた。
ぼろぼろになった木造家屋がいくつも立ち並ぶ。かなり前に人が去った様だ。
ところどころ床が腐り落ちており、つんとした腐臭が鼻をつく。
玄雪が、なんだか懐かしいな、と呟く。
白金、青草も、なんだか安心したような表情を浮かべている。なんでこんなカビ臭い所でそんな表情ができるのだろう?
だが、朱炎だけは違った。
他の三人を余所に、まるで壁の向こうの何かを見ようとしているような、あるいは何もない虚構を見つめているような……。
「……おい、大丈夫か?」
「え?………ああ、平気平気。」
それに気付いた玄雪が声を掛けると、朱炎はしばし我に返った様な顔をし、いつもの表情に戻る。
すると、物陰からガサガサと音がする。
五人が身構えると、そこから参加者と思しき青年が出てきた。背はあまり高くなく、少し不健康そうな顔つきをしている。
「あんた誰?」
いきなり朱炎が聞く。何言ってんのと白金がツッコむが、その青年は朱炎の方へ進み一礼する。
「美濃竜彦。堕天使は44番“侯爵『シャックス』”。」
俺達の顔を見ると、彼は来た場所から戻ろうとする。
「ちょっと皆さん来て下さい。他の参加者も集まってます。」
表に出ると、だいぶ人が集まっている。ざっと見渡したところ、三十人ほどは居そうだ。何をするつもりなのだろう。
美濃が奥に行くと、リーダー格らしき人物が出てくる。
背の低い男だ。年齢は三十代半ばほどだろうか。笑みを湛えたその顔は、あどけない少年とも、年老いた老人のようにも見える。
「はじめまして。安部真也と申します。カードの番号は17番“ボティス”。」
低く落ち着いた、よく通る澄んだ声だ。
「こんなにたくさん人を集めて何をするつもりだ?」
「今から話します。」
安部は後ろを向き、俺達をその方向へ行かせる。
「新たに五人の方が加わりましたので、もう一度確認をします。私たちは、十人程の集団で動きます。一度に多くの視点で周りを見ることで、一人でいるときより死角をなくすことが目的です。」
成程、確かにそうすれば鬼の発見はし易くなる。だが見つかった時は……?
「ハイ、それではだいたいでいいので分かれて下さいねー。」
……何の説明も無かった。それにしても、何故こんな開けた所に鬼は来ないのだろう。
しばらくして全員が幾つかのグループに分かれると、それぞれのグループが分かれてその場から去っていく。
「なあ、この作戦、成功すると思うか?」
隣にいた玄雪が聞いてくる。
「さあね。着眼点は良いんだろうけど、やっぱり穴が有るように見える。」
「ふうん、流石幾多の修羅場を潜り抜けた探偵さんはここが違うな。」
皮肉のような口調と共に、人差し指で頭をトントンと叩く仕草をする。
「……で、お前の…“ピュルサン”の効果は何だ?」
それを聞くと、玄雪は懐に手を入れる。
「あ、それもう話そうと思ったんだけど……コレだ。」
手に持っていたのは、小さな液晶画面のある小型の機械……GPSであろう。
島の全体図の中に、幾つかの点が光っている。
第六話『結託』 終