複雑・ファジー小説
- Re: 吸血鬼street ( No.8 )
- 日時: 2011/05/03 22:19
- 名前: 郷里 (ID: 8Sk6sKy2)
〜第三話・屡羽緋の秘密〜
超音波が狂うと予測された日の翌日。
昨日のように,みんなはまた,駆魅亜家の屋敷に集まった。だがその場には,屡羽緋だけがいなかった。
「あいつ,直前になって,逃げたんじゃ・・ ・」
みんなが口々に言う中,屋敷の中に一匹の白い猫がいた。
「あ,あの猫!」
和佳奈はその猫に駆け寄り静かに抱き,はっとしたように,その猫を手放した。
「どうした和佳奈?」
「この猫・・屡羽緋と同じ匂いがする・・・」
「なに!?それじゃその猫は・・・」
みんながその猫に注目したとき,猫が白い光に包まれ,やがて,人間の姿になっていた。
「こんばんわ。【レベル=S】の皆さん。」
屋敷の中に張り詰めた空気が漂う。
「ガベルの一族か・・・屡羽緋はどうした?
そいつは少し微笑むようにして言う。
「屡羽緋は私達に何も言わず,此処に来たと言うことが一族にばれたので,お父様から、お叱りを受けています。私は屡羽緋の代わりに手紙を二通,届けに参りました。」
そいつは胸元のポケットから,手紙を二通出して見せた。
「では,私の役割はもう終わりなので,帰らせていただこうと思いますが,最後に屡羽緋の願いを届けてから,帰りたいと思います。」
みんなが何かと言っている間にそいつは,巨大な虎ほどの大きさの猫に変化し,素早い動きで,和佳奈の後ろに立っていた。
「きゃっ!」
そいつは和佳奈を自分の背中に乗せ,屋敷の窓をぶち破った。
「待て!!」
仲の悪い,あの二人が珍しく声をそろえて言う。
最後,そいつが立ち去るとき,かすかに笑ったように見えた。
「・・・・・・」
みんなが事の早さについて行けないでいる中,あの二人だけが,あいつを追いかけていた。
和佳奈・・・
「ねぇ,猫さん下ろしてよっ!」
和佳奈はそいつの腹や足をめちゃくちゃに蹴っぽっていた。
そんな,和佳奈がうっとうしかったのか,自分が猫さんと呼ばれたことが気にくわないのか,そいつはまた,白い光をだして,人間の姿に戻っていた。
「すみませんが,和佳奈様。わたしは猫さん と言う名前ではございません。」
「じゃあ,名前教えてよ。」
そいつは,少し考え込むように言う。
「都合で本名は明かせませんが,不便でした ら,キャメットとお呼び下さい。」
和佳奈が少し笑いながら言う。
「やっぱ,ガベル一族の人って,ちゃんと動 物の名前入れるんだぁ・・」
「悪いですか?」
和佳奈がまたも笑いながら言う。
「別にぃ。でもさぁ,なんで私がさらわれな くちゃいけないの?」
「屡羽緋の最後の望み,だからです。」
キャメットは胸元から手紙を出し,和佳奈に渡した。
「なんで・・・?」
シン&忍・・・
「くそっ!あいつ何処行った!?」
忍が迷惑そうに言う。
「シン様,落ち着いてください。今,風の匂いで探していますので・・・」
「一番落ち着いてないのは,お前の様だが・ ・・」
よく見ると,忍は手が震えており,神経を集中できないでいる。
「お前,和佳奈のこと好きだろ。」
忍が不思議そうに言う。
「どうしてですか?」
シンがフンっと鼻を鳴らしながら言う。
「お前,会議の時とか,いつも庭で遊んでる和佳奈を見てるだろ。お前ってホントわか りやすい・・・」
忍が顔を赤くしながら言う。
「どうせシン様は,許してはくれないんでしょう?」
「そんなことは和佳奈が決めることだ。俺が決める事じゃ無い。」
そんなことを言い合っている家にガベル一族の住んでいる村までやってきた。
「お前,先行け。」
「あれ,シン様もしかして恐いんですか?」
「それじゃ下がれ。」
「はいはい,分かりましたよ。それではシン様,もう少しおさがり下さい。」
シンが三歩後ろに下がる。
その途端に,シンの前に大きな樹木が生え,そのツルでシンの身体をとりまいた。
「何をするっ!!忍!!」
「あなたは,次期,駆魅亜家当主。こんなところで何かあったら,大変です。代々,駆魅亜家当主・次期当主をお守りするのが私達,秦條家の者の運命。あなたのためならば,この忍,命の一つも惜しくはありません。」
「忍・・・」
忍は珍しく,シンに笑顔をむけ,
「大丈夫です。和佳奈様はわたくしの命に代えても無事に連れ戻してきます。」
忍がこの村で一番大きな,館の扉を開き,駆けていった。
「しのぶーーー!!!!」
また最後に忍は笑いながら,
「シン様のお側に居れたこと心より嬉しく思います。」
和佳奈&キャメット
「なんで・・・私の名前?」
「それは屡羽緋があなた宛に書いた手紙です。」
和佳奈は恐る恐る手紙を読んでみる。
◆和佳奈様へ◆
今日ここの会議に参加できないこと深く謝罪します。だけど,どうしても抜けられない事情がありまして・・・,本当に申し訳なく思っています。
最初,自分でもよく分かりませんでした。 なんで,自分は【レベル=S】の方々に協力したのか,なんで今,会議に行けないことがこんなにも苦しいのか。だけど,忍様を見ていたら分かりました。自分は忍様と おんなじ気持ちなんだと。俺は,忍様みたいに和佳奈様の近くにはおれんけど,気持ちは,まっすぐ和佳奈様に向かっていたことを。今では,はっきり言えます。
俺は,和佳奈様の事が大好きです。
叶わない事だと分かっていても,この気持ちは消えません。
だけど俺は,あまり永くないから,もう会えないかも知れないので,ガラじゃないけど,へたくそだけど詩を書いてみました。 これが俺の人生で最後の詩になるでしょう。
◆願い◆
どうして出逢ってしまったのだろう
どうして別れがあるのだろう
別れが無ければ
苦しむことも無いのに
だけど気持ちは収まらない
初めて出逢ったその日から
俺の心は一つに向いていた
何をやっても 集中出来ないくらい
そして別れは
足音無く やってくる
もしも願いが叶うなら
俺を ずっと ずっーと
あの方の所にいさせてください
だけど願いは叶わない
だから最後に
“さようなら ”
by 屡羽緋
「どういう事?屡羽緋がもう永くないって・ ・」
「ガベル一族が何故少ないか分かります?」
「?」
「ガベル一族は変化するとき,【レベル=S】の方々より力を使います。それを日常茶飯事にやっていると,変化するごとに私達の寿命も短くなるんです。」
「つまり,短命種・・・と言うこと?」
「・・そうです。だから和佳奈様にあいつの最後を看取って欲しいのです。」
「ねこさんと屡羽緋はどういう関係?」
キャメットは少しためらうように,言う。
「私と屡羽緋は,双子の兄弟なんです。」
「兄弟?ねこさんと屡羽緋が?嘘でしょ。だって,全然似てない・・・」
「兄弟と言っても,母親が違います。今の母は,あいつの本当の母親です。」
「ねこさんのお母さんは?」
「・・・病気で死にました。」
・・・・・・・
「ごめん・・・」