複雑・ファジー小説

Re: 頑張りやがれクズ野郎 ( No.15 )
日時: 2011/05/06 14:05
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

【胸糞悪いですよ】

さて、五日目だ。
つーか、今思ったんだが自叙伝って、一々前置き要らないのか?
いや、俺にとってはこれを書く事が日課になってるから、何か前置きを入れたくなるんだよな。
いきなり書くのが辛いっていうか。
まあ、次からは無くす事にするよ、そっちの方が読者さんも良いんだろうし。
でも、代わりに何書こうか……。
まあいいや、節目節目に俺の今の気持ちを入れておきゃいいだろ。
じゃ、続き書くぜ。

書いてて胸糞悪くなる。
ノンフィクション物語の続きをな……。













だるい。面倒臭い。かったるい。
何もかもが、俺の邪魔をする為に存在しているかの様な錯覚を覚える。
しかも、それがあながち唯の錯覚じゃねえ所が最悪だ。
俺のこの不快な気分は何時止まるんだろうか?
その何時かは、もしかしたら俺の【終わりの時】なのだろうか?
なら、今すぐ喉にナイフでも突き込めば。

楽になれるのか?


「ハッ、何考えてるんだ俺は」
アホらしい。
誰が簡単に死んでやるものか。
俺は生きてやる。
この【ゴミ箱】で生き抜いてやる。
例えどんなに汚れてたって、汚れたまま生き抜いてやる。
その為なら、どんな障害だろうと排除する。
そいつも同様に生きたいだろうが、知った事か。
堕ちてきた自分を恨む事だな。
それが俺達屑の生き様だろう?



「さて。まずは情報収集だな」
先程の危機を脱して、俺は人の存在が皆無な路地裏に来ていた。
ここはあまり知られてない場所で、俺以外の人間は滅多に来ない。
ビルとビルに挟まれており、通り道が狭いためだ。
だが、その通り道を抜けると意外と開けた場所に行き着く。
その為、荒事等から逃げるのは最適と言える。
つまり、俺の様な存在にはおあつらえ向きという事だ。
俺はそんな、一時の安住地でズボンのポケットから携帯を取り出す。
情報の収集にはあの馬鹿に頼るほかない。
「癪だがな……」
俺は携帯のボタンを幾つか押して、とある奴の番号に掛ける。
しばらく呼び出し音が鳴った後、電話がつながった。
そして、聞こえてくる何時も通りの——

『はいはぁ〜い、どもども〜、お電話ありがとう! 今日も元気な【死神】ちゃんでぇ〜す。どちら様かな?』

——馬鹿の珍言。

「……【死神】が元気ってどういう事だよ。死と元気が近い意味には思えないんだがな」
『あー。この陰鬱な声と華麗な突っ込みは……真木君?』
陰鬱な声ってのは余計だがな。
「ああ、そうだ。お前にちょっと頼りたい事が出来た」
『へぇ〜。そいつぁ、珍しいね』
「……」
【死神】の言葉に俺は少々黙ってしまう。
珍しい……か。
そうだろうな。俺が誰かに頼るなんて。
珍しい部類に入るんだろう。
『まあ、いいよ。君の頼みなら喜んで聞くさ。何の御用だい? 何か入用?』
俺は【死神】の言葉を受けて、話を続ける。
「いや、欲しいのは情報だ。【モノ】じゃない」
『情報?』
【死神】が意外そうな声を出す。
ふむ。矢張り情報を貰いたい経緯を、しっかり話した方がいいか。
俺がそう思考し、電話相手に説明をしようと口を開いた瞬間。
全身を凍りつかせるような言葉の羅列が、俺の耳に届いて来た。

『つまりあれかい? 君が今日、起きて服を着て街に出て。その後適当に老婆の財布を奪い、それを助けようとしたチンピラを殺し。その後金髪の女の子に殺されかけたと思ったら、次はグラサンがボスの、チンピラ連中に狙われ。現在絶賛逃亡中の君が求める情報を【売ってほしい】って事かい?』

体がピンと張り詰めるのを感じる。
長々とした言の葉が紡がれた先にあった【意味】は、俺の今日一日のこれまでの【行動】。
こいつ……。
「……視てたのか?」
俺の質問に、【死神】は事もなげに一言。
『勿論視てたよ』
……悪趣味な野郎だ。
こいつは人の行動を逐一把握してやがる。
いや、正確にはこの【ゴミ箱】で起こる大体の事を掌握しているという所か。
そういう事が出来る奴だ、こいつは……。
【死神】って通り名は、別に人に死を届けるって意味じゃない。
人の生を手中に収めているって事だ。
誰もこいつの監視下以外で、生を歩むことは出来ない。
勿論それは【ゴミ箱】での中だけなのだが……。
『それで? どんな情報を御所望かな? 金髪の女の子の狙い? 襲ってきたチンピラ連中の狙い? もしかして、老婆のその後を気にかけてたりする?』
ペラペラと【死神】は喋る。
もし、こいつが俺の敵だったら、俺は真っ先にこいつを殺しに行くだろう。
だが、こいつは敵じゃない。味方……と言い切れるかは疑問だが。
とりあえず、敵じゃない事は確かだ。
だから俺は、お喋りな【死神】に多少の安心と共に目的を話す。
この腐った連中だらけの街で、俺が頼れる数少ない人間。
それが【死神】なんて通り名が付くほどに、人間離れしているという事実に。

俺は少しばかり顔を歪めてしまった……。