複雑・ファジー小説

Re: 不条理を塗りつぶす理不尽 ( No.19 )
日時: 2011/04/09 17:45
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)

 それから早くも数週間が過ぎた。 一向にフェネクスは消えてくれる気配を見せず、むしろ事務所に住み着いていた。
 戸棚を漁り、茶菓子を物色。 まるで我が物顔で事務所の中を歩き回り、朝起きたら横で(略)状態で寝ていたことも多々あった。
 緊張感が無いと言うか、なんと言うか……。 もう少し危機感持てよ、見知らぬ男と一つ屋根の下だぞ。

 「ジン〜コーヒー無い?」

 「元からねぇよ」

 「じゃあ、買ってきてよ」

 「却下。 酒だったらあるぞ」

 「却下」

 「お前が却下して如何する」

 「それもそうだね」

 そんなやり取りが、数分続く。 そして大体はジンが言い負かされ、要求しているものを買いにいく羽目になるのだ。 何で、こんなことをしているのだろう……。
 コーヒーを買いに行った帰り、道をふさぐようにして小さな可愛らしい子供が寝転んでいた。 この辺は車のとおりは少ないのだが、車道に寝転んでいるのは頂けない。

 「おい、轢かれるぞ」

 呼びかけても反応なし。 熟睡してるらしく、ピクリともしない。

 「仕方ねえ……」

 抱き上げるのは面倒。 故に、襟首を掴んで歩道へ持っていったのが間違いだった。 息苦しくて眼を覚ました。 そして、大暴れする。

 「人攫い! 人攫い!」

 「人聞きの悪いこと言うな、餓鬼」

 相変わらず、短い手足をばたつかせて暴れる。

 「離せ、不心得者! 地獄の大総裁ヴォラク様の襟首を掴むな! オイ! コラァ!」

 大声で叫んで暴れてジンを殴り倒そうと躍起になるが、まず手が当たってすら居ない。 何だ、この餓鬼は。
 地獄の大総裁だ? あれか、フェネクスと同じような部類か。

 「地獄の大総裁ってことは、お前悪魔か?」

 「そうだよ、分かったらとっとと離せ」

 「暴れるのを止めたらな」

 ジンの言葉の直後、ヴォラクは暴れるのを止め、大人しくなった。 何だよ、この餓鬼は……。
 地面へと放り投げると、前のめりにぶっ倒れ、そのままヴォラクは顔面を強打した。 そして、泣き始める。
 止めろ、何だよ、俺が泣かせたみたいになってんじゃねえか。