複雑・ファジー小説
- Re: Gray Wolf ( No.100 )
- 日時: 2011/07/25 14:25
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 最近ユーリ視点のグレウルのネタを夢で見た俺は末期
第 5 5 話
裏 切 り
彼は髪を揺らしながら刀を構え、機関銃の発砲を止めた兵士らを睨んだ。
その目は、今までの彼とは違う、冷徹で、見るもの全てを敵視するものだった。
「ユーリッ!!!」
「ユーリさん・・・・・・!!」
そんな彼の名を叫ぶシエラとレフィの悲痛な叫びも届かず、ユーリは周りを凝視した。
「おい、お前・・・「さっさと行きな、ここで喋って捕まりたくねえだろ」
ルリが動揺しながら声をかけるが、その言葉で口を閉じ、ユナを庇いながら背中を向けて走る。
その2人に軍人達は銃口を向けるが、突如飛んで来た赤い光が二つ、彼らの足元で爆発した。
ユーリが放った炎牙斬がそれであり、兵士達を怯ませた事によって完全に道が開いた。
そこで、兵士達の中で最も老けた者が一歩前に出て、ユーリに言う。
「君は、軍を敵に回すつもりかね?」
「別に。 お前らが此処で邪魔するっつーなら俺はいくらでも相手するぜ」
「邪魔とは君の事だ」
ユーリがかけた挑発にその軍人は、兵士達に指で指示するが、その合図で撃ち放つよりも先に、彼が放った炎牙斬がまた炸裂する。
陽動にしたそれらを利用して一気に接近し、兵士達の機関銃を両断し、彼らを蹴り飛ばす。
同時刻に、気楽そうに街を歩いていたレンが角を曲がって来た。
彼の目にその時映った光景を見て動揺しながらも、すぐに駆けつける。
そして、最後の一人と言わんばかりに指揮官と思われる老兵を斬ろうとした彼を抜刀した剣で止めた。
「ユーリ・・・!!」
「‥‥あん? 何だお前か」
深刻な顔を浮かべるレン。
その彼とは対立して、いきなり止まった勢いに驚きつつも、淡白した、冷ややかな態度のユーリ。
剣同士が流れる様に擦れ合い、持ち主と共に離れ合う。
次に、また彼らは接近しあい、剣を振り合ってはぶつけ合い、一歩も引くつもりは両者に無い。
かと思えば、ユーリから距離を離し、紅蓮の炎を剣に纏わせそれを飛ばす。
魔術には魔術。 そう判断したレンは覇気を溜め、持っている刀に注ぐ。
その覇気が溜まった剣を振り、飛んで来た炎の三日月を弾く—————————
「弟切—————!」
と、思われたが、レンの攻撃はそれには全く利かず、むしろレンの方が吹き飛ばされた。
宙に浮き、背中から地面擦って倒れたレンは呻き声を上げながら立ち上がる。
彼が立ち上がるのに時間がかかったのは決して傷の所為ではなく、一つの疑問が頭の中を支配し、彼の動作を遅らせるほどだったからである。
「な、何で・・・・・・」
信じられないといったような見開いた目で彼に訴える。
「何で! 相当覇気を込めたはずだ!!!! 何でそれなのに・・・・・・」
彼は自分の覇気を込められるだけ込めた。 だから正にフルパワーで放ったも同然。
だから、軽めに放った彼の炎牙斬を防げない訳が無かった。
彼は変わらず冷ややかな目でその疑問に答える。
「お前のそれってさ、相手に敵意あればあるほど纏う覇気の質が上昇するんだろ? だから、少ない覇気でも場合に寄れば一撃必殺になる」
———————じゃあその逆は?———————
—————裏切った味方に対してなら?————
「どんなに覇気を込めても威力が落ちる。 感情に左右される魔術は珍しいっちゃあ珍しいけど、そういうところじゃ役に立たねえなぁ?」
「・・・・・・」
その言葉を受け、完全に脱力したレンは、恨めしそうに自分の剣を見つめる。
剣を通して自分の弱さを見つめる。
そんな彼を置き、老兵は前に出てユーリに問う。
「君は何故そんなことをしている? 何故彼らの味方をするのだい?」
話から察するに、2人は犯罪者。
味方をするという事は、共犯になるということ。
共犯になれば、主犯と同等か、それ以下でも軽くない刑が罰せられる。
しかし、その事に物怖じしないユーリは、呆れたように答える。
「別に? まああの2人はちょいと性格破綻したとこあるけど、罪犯すようには見えねえからな」
「見えなくとも、彼らの罪状はそうなっている。 認めたまえ。 今ならまだ公務執行妨害だけで許すぞ」
ユーリはその言葉を笑い捨て、嘲笑うような態度でそう言った。
「画像や文字に示された事で失うような安い信頼、生憎俺は持つ主義じゃあ‥‥‥」
そこまで言って剣から炎を出し、振る構えをする。
一呼吸置き、放出された炎は更に勢いを強め、はち切れんばかりになっている。
「ないんでな!!!!!!!!」
そして連続で剣を振り、その度に炎の斬撃が飛び散る。
斬撃全てがレン達の足元に着弾した瞬間一斉に爆発し、巨大な爆発を起こす。
幸い、民家に被害は出なかったが、刀を納め、去ろうとするユーリと戦える者は一人も居ない。
しかし、背中を向け、ルリ達の後を追おうとする彼を止める者は一人、残っていた。
彼の左袖を掴んだ白い腕。 気づいたユーリが振り返るとそこにはシエラがいる。
「何だお前・・・・・・。 帰りな」
今にも泣きそうな彼女にも容赦なく突き放すような言葉を吐き捨てる。
だが、シエラは強く首を横に振ってそれを否定した。
「ユーリも一緒に帰ろう?」
更に、袖を掴む力が強まり、しかも引っ張る力が入る。
それでも動じず、彼はただ単に冷ややかな目でシエラを見つめていた。
「帰らねえよ。 失せな」
「なら私も一緒に・・・・・・」
ユーリと行く
それを言おうとした時、急にユーリが振り返ってシエラを抱き寄せた。
そして右手を上に伸ばし、指を伸ばして手刀にする。
「またな」
言って、彼女のうなじに手刀を当て、瞬間、彼女の目は閉じ、開かなくなった。
衝撃で気を失ったシエラをしゃがんだ体勢でゆっくり横にし、ユーリは立ち上がる。
誰もが動けず、倒れている中でたった一人立っていた彼はまた背を向け、去って行く。
今度こそ、彼を止める者は誰もいなかった。
裏 切 り
終