複雑・ファジー小説

Re: Gray Wolf  移りました ( No.34 )
日時: 2011/04/07 19:06
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


      第   2   6   話

            龍
            の
           キ メ ラ
          化 け 物


ライオンと熊が一体化したような5匹のキメラが咆哮しながら走り出す。
低い体勢で睨む先には対抗して走るユーリ達であった。
キメラは口を開け、爪を出し、振り下ろそうとする。
それよりも先にユーリは前方に勢い良く跳躍した。
そして右足を前方に突き出し、腹の真ん中へ命中させた。
弾力のあるそれの中に足が軽くめり込み、そのまま力を入れると、キメラは吹っ飛んだが、同時に自分の体も後ろへ小さく弾かれる。
少し体勢を崩しながらも何とかしゃがむ様に着地し、立ち上がる。

その動作の間に既にレンは一体のキメラと交戦しており、レフィもまた、右手のナイフから魔術を発していた。
何より驚いたのはレフィ。 さっきまで炎を出していたのに、今度は高圧水流—————水属性の魔術を発している。
一つの魔方陣で複数の属性を扱える者は珍しくないが、あの年で、という事は余程魔術に精通しているのだろう。


ユーリも近くに居たキメラの懐へ飛び掛り、両足を斬りおとす。
だが、本能で動いている彼らはユーリを喰らおうと、腕の力で移動し、大きく口を開けてユーリに飛び掛った。
一瞬驚いたが、心配の必要はない。
シエラが使役する幻獣—————コンクが突風を発し、攻撃を止めるどころか、後方に吹き飛ばした。
ユーリは微笑しながら走り、跳躍し、仰向けに倒れたキメラの左胸へ刃を埋め込んだ。
上げた叫び声はいつしか小さくなり、やがて生気と共に止まった。
ユーリは振り向き、ニッと笑う。
「ありがとな、シエラ。 お前がいなきゃ結構やばい怪我してたよ」
「ええ? そんなことないよ。 私そんなに役には立ってないかも‥‥‥」
自分を卑下するシエラにそんなことない、そんなことない、とユーリは優しく慰めた。
そして、既に扉を見つけていた彼らは、そのまま扉の奥へ足を踏み入れんとする。

開いた巨大な扉の向こうは、巨大な広間。
と言うほどではないが、80cm×80cmのそれなりに大きい正方形の部屋だった。
そして、その中央付近に統一して白髪が生えた白衣の老人。
服装からして医者か何かかと思ったが、雰囲気から全くその感じからしない。
怪しい、と言うより奇怪な雰囲気がある。
「おやおや、どうやらお客のようだ‥‥‥」
歯を見せながら、老人は笑う。
前歯の一部が抜けているため、口の中が少し見える。
「あんたがリナータとかいうやつの親玉か? 随分老けてんなあ」
「ふぁっはっは‥‥‥。 ウチのボスは既にここにはおらんよ‥‥‥」
「何?」
彼の未だ不愉快に笑う顔を見ながらユーリは訊く。
しかし彼はその疑問に対する答えなど出さず、話を進める。
「じゃが‥‥‥まあ、お前らにふさわしい相手ならおるぞ」
ほれ、と言う言葉と共に懐から小さな機械を取り出す。
そこにある小さな突起を押した直後、轟音が彼の後ろから響く。
それに混じって聞こえる鳴き声らしきものは、ユーリ達の耳をつんざいた。


そして出てきたのは巨大な化け物。
作り話や昔話、そういった現実性のないものならば確かに見たことがある。
だが、写真や絵などで見るものではなく、目で、直接、スクリーンなどなく見ている。
5m以上の体格、巨大な翼、鱗の見える巨大な尻尾、強靭な爪や牙の生えた巨大な腕や口、胴、腕、尻尾、翼、全てを包む硬い皮膚。

龍の、化け物だった。

そんな事があるはずがない。
現実に存在するには不可思議この上ない生物だ。
だが現にその龍と思われる化け物は彼の後ろにで開く巨大なシャッターから出てきている。
ユーリは驚くが、平静を保ちつつ訊く。
「おいおい‥‥‥こんな現実離れした奴は見たことねえよ。 キメラか?」
「そうじゃ! 大蛇、鷹、ライオン、熊の4種類のDNAを合成して作られた、このキメラ! 更に、見てくれだけではないぞ‥‥‥やれいっ!!」
白衣の男は手で指示を示し、それに応じるように、手の平から赤い光をだす。
そしてユーリに向かってその手の平と同じぐらいの大きさの火の玉を飛ばした。

即座に反応し、後ろに大きく跳んだ。
その直後、ユーリの居た場所は炎上し、焼け焦げる。
口を開けっ放しにしていたユーリ達を嘲笑いながら言った。
「こいつの手の平を見てみろ‥‥‥ほら…魔方陣が見えるじゃろう?」
言われた通りに龍の手の平をを見ると、確かに魔方陣が刻まれている。
「獲物を狩る、戦闘本能だけに長けたこやつは!! 魔方陣を操ること、すなわち魔術を使うことが出来る」
狂ったように声を上げ、高笑いする。
厄介なことだが、飲み込まなければならないこの現状に、ユーリは舌打ちする。
「ちっ‥‥‥何処の勇者冒険ゲームだっつーの」

Re: Gray Wolf  移りました ( No.35 )
日時: 2011/04/07 19:07
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


「ハハハハハハハ!! このキメラを大量に生み出し、生物兵器としてこの国を潰す!!! さあやれい!!! こやつ等を殺すんじゃっ!!!!」
余りの思い上がりに大声を出し、ユーリ達を指差した。
だが動かない。
決して動けない状況ではないはずだ。 だが動かない。
「何をしとる!!! 早く奴を———————」
後ろを振り向きながら龍をたしなめた。
それで分かった。
龍が、白衣の老人に視点を向け、今にも殺そうとしていることを。


龍は老人の指示に逆らって歩く。
老人は逃げようとしたが、尻餅をつき、腰を抜かしたため逃げられない。
巨大な右腕が振り上げられる。
「待て!! わしじゃ!! 主じゃ!!! 反抗するというのか!!! 止めろ‥‥‥止めろおおおおおおおおああああああああああ!!!!!」
直後、振り上げた腕は老人に向かって下ろされた。
手の平と床に挟まれ、老人の体は一瞬でつぶれ、床につけた指と指の間から血が漏れている。
その光景に脅えざるを得なかったシエラやレン、レフィ。
またこの状況を面倒がっているユーリ。
「おいおいおいおい、しっかり飼育しろよ…。 こんな奴街に出たらヤバイだろ‥‥‥」


龍は翼を使い、一気に天井へ飛び上がった。
その際に生じた風圧は、彼らの体を軽く吹き飛ばしそうな威力だ。
それに怯み、また龍を見るとその天井を炎で突き破った。
天井からコンクリート製の破片が落ち、一つだけユーリ達に向かう。
それを納刀状態の炎牙斬で破壊し、再び龍を見る。
が、すでに外に出ていて、それを理解したユーリ達はすぐに出口へ向かうべく、来た時と反対方向を走り出した。




集まっているは傭兵団、国軍、ガーディアン。
全員リナータを壊滅させるために集まってきた。
だが、目の前にあるリナータの拠点、巨大な建造物の上に立っているそれを見て、全てが驚愕の表情を浮かべていた。
龍は両手から魔術で火の玉を生成し、下にいる者たちに目掛けて飛ばす。
直線状に飛んでいくそれは、彼らの近くで当たり、また当たって爆発する。
そしてまた上空へと飛び、高速で空を駆けた。

その後、ユーリ達は巨大な扉のない出入り口から飛び出し、走ってくる。
ガーディアンがその中からレフィを見つけ出し、声を上げた。
「レフィ!! どうだった!!? 私達の時間稼ぎの成果は、ボスは倒した!?」
「班長! そんな事言っている場合ではありません!! 今すぐあれを追いかけないと———————」
「ユーリ!」
レフィが班長と呼ばれる人物に事の説明を大雑把ながらも説明していると、連歌声を上げる。
直後、レンやシエラと一緒に固まっていたユーリはおらず、彼らが見るその先を見ると、ユーリが全速力で走っている。

しかも、崖に向かって。

ユーリはその地面の縁で跳躍し、宙へと舞った。
見渡す限りの山と森。
その景色が大きく霞み始め、下から吹く風で長い金髪とコートが暴れだす。
全員が驚愕し、レン、シエラ、レフィは勿論、一部の者が崖に駆け寄り、ユーリが落ちたその先を見た。
その時既にユーリは大木の太い枝に足をつけ、立っていた。
「ユーリ! 何やってんだ!!! そんな危ない——————」
「こんな非常時に、道なんてわざわざ選べっかっての。 なーに、俺が追い詰めとくから、お前らはゆっくり追いかけな」
大声を自分に向けたレンにユーリは言い返す。
じゃな、と右手を少しだけ上げ、近くにあった大木の枝に飛び移る。
そうして樹から樹へ飛び移り、ユーリの姿は森の中へ消えていった。

ユーリは上空を飛ぶ龍を見ながら木の枝を足場にして追っている。
その途中にあった崖へ飛び掛り、刀を突き刺し、落ちないように固定する。
そのまま斜面角度が激しい崖を地面の様に走り、頂上まで一気に到達する。
もう一度上空の龍を確認し、今度は草の生い茂った地面を走り出す。
木々を抜け、そしてまた見えた崖の下へ跳び、幾つか著しく突起していた岩壁の一つへ着地する。
目の前には山で囲まれた、山脈特有の盆地と呼ばれる土地。
通常の盆地よりは小さいが、中々見渡せる広さであった。
龍はそこで動きを止め、小さな盆地へと下降する。
ユーリから一番遠い、対称の位置にあった高台へ羽を休ませ、足を着ける。


ユーリの存在に気づいていた龍はこの世の生物では聞いた事のない、鳴き声、雄叫びをあげる。
遠くにいながらも互いを威嚇し合い、睨みあう。
ユーリは岩壁から勢い良く跳び、龍は翼を使って飛び上がる。
その動作の途中にもお互いは睨み合い、そして———————


人間と、人知を超えた生物との戦いが、このリレイス山脈盆地で始まった。





          龍  の
             キ    メ    ラ
            化   け   物


                 終