複雑・ファジー小説

Re: Gray Wolf  移りました ( No.46 )
日時: 2011/04/07 19:19
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

   第    3    3    話



          鬼神         九刀流



取り出したのは一本の矛。
その長さは持ち主の身長を祐に越しており、2mはあるだろう。
それを手を軸に乱回転させ、振り回し、背を高くして構える。
ユーリも構え、同時に突っ込んできた。
未だ高く構え続けている。
あれほど長い矛なのだから高く構えないと扱えないのだろう。

そして、振り下ろしてきた。
それを左に避けて様子を見たが重量はそれほど無いことは地面を見てわかった。
後に、こちらの方へ振り回してくる。
それを避ければ、今度は何度も何度も、間髪いれずに打ち込んでくる。
何度か応酬をしている内に、長い柄がユーリの脇腹に当たる。

男はそのまま長い柄を回し、ユーリの体は崩され、横に飛んでいく。
うまく地面に手をつけた後に足をつけ、頭からの直撃は避けた。
男がまた矛を回転させながら突っ込んでくる。
先ほどまで剣術の使い手であった筈の彼は今や槍術を巧みに使っている。
何度も来る斬撃の軌跡を見る限り、かなり訓練されているのだろう。


そうして呑気に観察していた時、斬撃を止め、槍を回転させて振り回す。
左手を上に、右手を下に持ち、ユーリに切っ先を向けるように構える。

矛を前に突き出したと共に、ユーリも横に避けてかわす。
同時に、巨大な風圧がユーリの背中を押した。
矛は自分の横にあるというのに突き出した方向へ風が吹き、結んだ金の長髪は乱れていった。
さほど大したことはないのだが、ただの矛による突きにそんな威力があるとは思えない。

———————こりゃやっぱ‥‥‥

驚きながらも、何かを確信するように近づいてくる矛を見つめる。
刀を構え、再び来る斬撃達に、刃を振って応える。
弄ぶ様に振り回しながらユーリへ次々と打ち込んだ。
跳躍し、突きの構えを取り、空中よりその長い柄に付く刃を直進させる。
足元に飛び込むその軌跡をユーリは後ろに飛んでかわし、深々と突き刺さり、塵を巻き上げさせながら地面に小さなひびをいれる矛を見た。



少し硬い音を出しながら着地した後、地面に全長の4分の1ぐらいはめり込んだそれを抜き出し、手を軸に振り回す。
一つ溜息をついて、呟く。

「鬼神九刀流魔術奥義———————」

ユーリは咄嗟に身構え、全身に力を込めた。
それを無駄と言いたげな、呆れた顔で見つめた。
突然刃に刻まれた紋章が光りだし、炎が灯り始めた。
それを確認すると、長い柄を振り回し始め、徐々にスピードを上げていく。
その乱回転は今までになく荒々しく、刃に灯った炎はまるで鼠花火の様に明るい円を描く。
回転の動作を止め、構えた矛の、持ち主の周りには蛇の如く炎が渦巻いている。


「矛槍炎舞」


巨大な大火は遠くにいるユーリの肌に熱気を与え、汗を出させる。
「行くぞ」
その一言と共に男は走り出す。
劫火を、振り被りながら。

熱気を伝わらせる、巨大な炎を一撃一撃を受け止める。
何発も、十何発も、攻撃を受けた後、例の突きの構えが来た。
炎は矛を中心に半円を描くようにして巻き上がっていた。
そして、緋色の高熱と共に突き出す。

まだこちらの体に届かないはずなのに。
だがそれは何故なのか、納得した。
突きの一撃と同時に炎は火柱となり、ユーリへ迫る。
逃げようとしても無駄。 既に体が包まれていた。
しかし、それでも足掻くか、息を止め、腹に力をいれ、焼かれない思いで耐え続ける。




纏っていた炎は火柱と共に消え去った。
火柱に巻き込まれたビルの側面は焦げ、そこには座り込むように倒れているユーリがいる。
だが、未だに頭の前に左腕を持っていっていることから、息がある。
それどころか、スッと立ち上がり、大きく息をついた。
驚きの感情は形となり、顔に、そしてのどから口へと出る。
「貴様…何故‥‥‥」
「わりぃな。 ちょいと特別なコートでよ、これぐらいで済んだのは良かったぜ」
ユーリは余裕そうに笑みを浮かべ、自分のコートを見る。
右袖は元々無いとして、左袖の半分はボロボロになり、足のすねまで長かった裾も、今はビリビリに引き裂かれたようになっている。


仕方ない。


そう一言男は言った。
その瞬間、男の周りから次々と棒のような物が空間から現れ、それをどんどん取り出し上空へ飛ばしていく。
更に、持っていた矛も、地面に合った巨剣も小刀も、勝手に上空へ上がっていく。
出てきた五つを含め、残りの三つを足した八つの物体は宙で静止し、そして散り散りに離れていく。
それらは地面に突き刺さり、その内例の巨剣が男の目の前に突き刺さる。


大剣でも、細身の剣でもない中間の大きさといった鋸状の刃を持つ
崩鋸刀

小さく、30cm程しかない小刀
薄鋭刀

長い柄を持つ矛
矛槍刀

上下逆の湾曲した刃を持つ鎌
絶傷刀

刃が無い、柄と鍔だけの刀の形をした
夢幻刀

弧に刃の付く、大型の弓
弓狙刀

東方特有の、黒い縁に刃の取り付かれた赤い大盾
硬純刀

銃身に小さく刃をつけたオートマチックの拳銃
銃連刀


それぞれの「八本の刀」を男、ユーリの前後左右にばら撒く様に地面に突き刺されている。
「この鬼神九刀が八本を取り出さなければならない程の強敵は、久し振りだ」
地面から、崩鋸刀と呼ばれし巨刀を抜き出し、切っ先を遠くにいるユーリに向ける。
「名を、名乗り合おうか。 お互いに。 俺は、ルリ・ミナゲツ」
変わらない姿勢。
変わらない口調。
変わっている瞳。
実力を認めた者の瞳が、自分を見つめる。

嬉しくないわけではない。 この気分は。

フッと笑い、口を開く。
「ユーリ・ディライバル」
「そうか。 なら、行くぞ。 ユーリ・ディライバル!!!!!!」

両者、共に駆け出し、獅子の本能を曝け出す様に咆哮し、刀を振り被る。
上から下へと縦に、右から左へと横に、彼らはその刃を込み上げた感情を纏わせ、ぶつけ合い、響かせた。






  鬼

  神

  九
                  終
  刀

  流