複雑・ファジー小説

Re: Gray Wolf  移りました ( No.53 )
日時: 2011/04/07 19:23
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


「ディライバル‥‥‥」
間違いない。
ドアの前の傍にある表札に記された『Diriball』と言う文字を見て呟く。
右手に大きな、しかし大剣程ではない中程の大きさの刀を持ち。
聞きなれた声が聞こえ、刀を握る手の握力は更に増す。
そして、開け放たれたドアの隙間へ切っ先を——————

    第

    3
          訪  問  の  剣  士
    9

    話


ガンッ


大きく高い、鋭い音が鳴り響く。
それは、鋸状の刀と直刀が交差しあった際に出たものだった。
「な‥‥‥」
驚いたときにはもう遅い。 金髪の男は自分の目の前まで来て首に鋭利な物体を突きつけている。
斬るつもりだったら確実に死んでいる。
そう理解し、右腕に込めた力を緩め、刀を降ろす。




「「‥‥‥」」
居た堪れない。
彼ことルリ・ミナゲツはそんな事を考えていた。
成り行きとは言え、一度は狙った命と机を挟んで、ソファーに座り合う。
向かい側に座っているのは黒髪の短髪の男、レン。
ルリが「名前は何だ」と訊き、レン・ウォンと単語だけ言い、黙り込んでしまった。
決して怒っている訳ではなく、どちらも行動を探っている。
そう考えていると、後ろからティーセットを持ったユーリがやってきた。
「砂糖とミルクは好き放題入れろよー‥‥‥っと」
ポットが二つ、容器が一つ、カップが三つ乗っているトレーをテーブルに置き、レンの隣に座る。
そして置いた本人が逸早くカップを取り、紅茶を入れて砂糖をさじ二杯半程入れた。
二杯半も入れるなど何処まで甘党なのか。

それはともかくとし、本題はルリの事。
ルリも酷い怪我を負っていたし、お互い様である。
故にこの状況はどうするか。
最悪、また戦闘モードになりかねない。
ユーリは砂糖入れすぎの紅茶を優雅とは程遠い飲み方で飲んでいる。
ルリは変わらない表情。
レンは顔に出るほど深く用心していた。
シエラとレフィは取り合えず外に出てもらっている。

この息苦しい空気の中、ルリがついに立ち上がった。
それを過剰に反応したレンは声に出るほど驚愕したが、ユーリは全く動揺しない。
ただ、立ち上がった彼を見据えているだけだった。
そして、ルリは口を開く。


「そちらの意図も察さず、また理由を聞かずに攻撃した事を深くお詫びしたい。 すまなかった」


脇に置いていた剣を握り締めようとしていたレンはそこで呆気に取られる。
まさか謝られるとは。
今まで黙り込んでいたユーリもティーカップをテーブルに置き、急に姿勢を正した。
「‥‥‥俺の方こそ、そっちの事情も知らずに邪魔して悪かったな。 次からはちゃんと考えるぜ」
え?
ルリが謝り、ユーリが謝り、レンだけが残され。

———————これ俺もやるの!!?

「あ、う、え‥‥‥」
流れ的にやるしかない。 ここでやらなかったら空気読めない奴の肩書きが背負われてしまうとレンはしどろもどろする。
しかしどうする。 自分はただ単に加勢してすぐに戦闘不能にされただけなのに謝る内容が全く無い。
(ええい、ヤケだ!!!!!!)
「それでは早速本題に入りたいのだが‥‥‥」

ガタンッ

立ち上がって謝ろうとしたのに、話が切り替わられる。
テーブルに倒れ込み、それをユーリが呆れた目で見る。
「何やってんだ‥‥‥」
「いや、もういい‥‥‥」
ユーリの質問に答えず、涙目になって座りなおす。




ルリは懐から、一枚の写真を取り出し、それを二人に見せる。
そこには、俗に言う浴衣姿の少女。
肩に掛かる位の黒髪だが、レフィ程真っ直ぐではなく、ふわふわしたイメージがある。
横から振り向き様の状態で、満面の笑みを浮かべる顔の近くでピースを作っている。
「こいつを見たことがないか? この姿で歩いている奴を‥‥‥」
浴衣と言うのは日天の民族衣装で、このヴェルゲンズでは珍しいどころか国違いすぎる。
だから、この姿で歩いていて分からない筈がない。
と、いうか———————

「そういうのは警察に頼めよ‥‥‥」

正論。
こんな姿なら様々なところに配置されている警察に頼めば見つけ易い。
だが—————
「警察じゃ駄目だ。 あまり表の人間に探させるのは危険すぎる‥‥‥」
「「は?」」
ユーリとレンの疑問声が見事に重なる。
しかしそれどころではなく、理解し難い。


何故警察では駄目なのか。

表の人間では駄目とはどういうことか。


ユーリはただ写真の中の少女を見つめた。
こんな可愛らしい娘の何が違うのか、それを探す様に。





    訪             剣

             の

        問              士



             終