複雑・ファジー小説
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.6 )
- 日時: 2011/04/07 18:48
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
2 も う 一 人
話
ロートスシティ設立ハイスクール中等部——————
チャイムの音が校舎中に響き、6限目の終わりを告げる。
そして直ぐに起きたわずかな沈黙の後に各教室内はざわめいた。
帰り前のホームルームも終わり、それぞれの生徒は帰宅の準備をする
「シーエラちゃん! 帰ろ!」
「え? あ、リンちゃん。 うん」
自分の頭に手を置き、軽く撫で、後ろからする声の正体にシエラは反応する。
茶色い髪で、白い上着に水色のTシャツ。
紺色のデニムを履いている。
活発で懐っこく接するその少女は天真爛漫とも言うべき笑顔を見せ、シエラに強く抱きつく。
いつもの事ながら、あまりに突然来るそれは、シエラの口から悲鳴の声を漏らす。
重心をこちらへ掛けてきたものだから思わず体勢を崩しそうになるが、何とか持ち堪えた。
帰り道、日はまだ西のかなたには沈まず、街中を照らし続けている。
「あ、そうそう」
リンは携帯電話をいじりながらシエラに話しかける。
指の動きからしてメールでも打っているのだろうか。
気になったが、無断で見るわけにも行かず、だからといってわざわざ「見せて」と言ってまで見る必要性も無いので止める。
「明日の日曜日にね、クラスで遊園地行こうだって。 来れる人で来てって話だけど…行く?」
今度は画面を閉じ、振り向いて話しかける。
少し間を空けて考えたが、何もないだろうと悟ると、声に出しながら頷く。
それを聞いて嬉しかったのか、また笑いながら抱きついてきた。
流石に街中なので、これは抵抗したが、離れそうにない。
街の人達は普通に通り過ぎていたが、時々見る人がいて、羞恥心を煽らせる。
周りの人からどんな風に見えているのだろうか。
それを考ええるだけで恥ずかしくなり、顔の表面が熱く感じた。
翌日———————
ユーリはあくびをしながらベットから起き上がる。
直ぐ近くにあった長方形の木製テーブルには魔術に関する本が散乱していた。
もう一度あくびをしながら頭を指でかき、傍にあったブーツを履いてテーブルまで近づいた。
(昨日疲れて眠ったんだっけ‥‥‥)
半分目を開けた状態で書物を見つめると、めんどくせと呟き、手に取る。
関連した書物をそれぞれ分けて積み重ね、やがて疑問が浮かぶ。
あれ、と呟いてまだ散乱している書物の山をもう一度かき回した。
ない、ない、ない、ない、ない。
何処にもない。
確かに昨日はあった筈の物がない。
召喚術についての記述がしてある本が無い。
あれ、とまた呟いてユーリは手を頭に回す。
ロートスシティ遊園地——————
あれ、とシエラが呟いた。
バッグの中に見慣れない本が入っている。
赤く、背表紙にはヴェルゲンズ語で「召喚術」と書いてある。
「どうしたのー? シエラちゃん、もう行くよー?」
リンの呼ぶ声が聞こえる。
顔を上げるとリンやクラスメートがいた。
大半は既に歩いていたが、リンと後3人がこっちを向いて呼んでいた。
特にリンは満面の笑みで手を振り、早く早くと急かしている。 クラスメートとこうして遊ぶのが嬉しいのか、それともただ単にシエラと遊びたいだけか。
どちらにせよ、直ぐに行かないと怒るだろう。
シエラは乱暴にファスナーを閉め、向かった。
その時、昨日の出来事をまるでフラッシュバックの如く、鮮明に思い出し始める。
——————
日も西の向こうの山へ落ち始め、昼の時間も終わりを告げ始めている。
「ユーリ? もう帰るね」
「ええ? そんな時間? もうちょっと居てもいいのに‥‥‥送ってこっか?」
「ううん。 大丈夫。 そんなに暗くはないから」
ドアを開けながら言うシエラにソファーに腰掛けていたユーリは答える。
心配されるのは悪いことではなかったが、迷惑をかけるわけにはいくまいと思い、断る。
その時、シエラは気付かずに持っていた本を無意識にバッグの中にしまった。
——————
(あ、あの時だ)
シエラは走りながら昨日起こったことを思い出した。
だがもう遊園地にいるのだから、返すのは遊んだ後でも良いと思い、直ぐに頭の中から姿を消す。
も う 一 人 終