複雑・ファジー小説

Re: Gray Wolf  移りました ( No.70 )
日時: 2011/04/29 18:10
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: http://yaplog.jp/yurida/


   第



   4

             勝     手     な

   6
               ヒ       ト
               人       間

   話
                   達



肩から流れ出る血を抑え込んで、男はしゃがむ。
見るからに痛そうにしているし、実際呻き声も上げている。
それ以外に、驚いている。


刃に触れさえしていないのに、勝手に斬れたのだから仕方が無いが。



とはいえ、あくまで刃が無かったわけではなく、ただ単に彼が刃と思っていなかっただけだ。




魔術奥義『夢現之殺』
空気中に存在する水分を集めて冷気で冷やし、刃を作るもの。
だが、ごく一般的な刀の形状に変わるだけではない。

大気中の水分を冷やしながらも、集めず、刃の形にせず、氷の結晶に変える。
その氷の結晶は一つ一つに鋭利がつくようにされた小さな刃であり、対称を斬る際に一つに集まって斬るようにされている。
つまりは、『冷気で人を斬る』と言う解釈でも強ち間違ってはおらず、むしろ更に言うなら『冷気で冷やされた氷の粒で人を斬る』と言う事。





よろめいて立つ男に、更に斬撃を加える。
氷の粒たちによるその斬撃は、柄を振ってしばらくしてから引っ張られるように動き、まるで鞭の様に不規則な動きをしていた。
その上、あまりの気体に近い程に小さな固体である。 銃火器で受け止められる筈もない。
不規則、防御不可、それこそが『変則性』を固有利点とする『夢幻刀』の力—————————








列車は中央区バリダナ駅に着き、中からは両手を拘束されたテロリスト達が警察と共に出てくる。
無事、事件は終わったという事だ。
事実上、刃物、銃器を傷害理由で振るったルリは当然警察、及び軍人に連れて行かれ、一人注意を受けていたわけだが、殺す気は無く、捕らえる手助けになったため、刑務所入りにはならなかった。


—————————そういえば




—————————あいつはいつもこんなんだと言っていたな




—————————こんなに長ったるい説教をいつもきいているのだろうか



だとしたら気の毒な話である。
しかし、そうまでしてでもユーリはあの街を助けていたわけだ。
だが、この長い話は日天に居た頃の学校の先生並み。
特に校長やら教頭やらが当てはまる。
ドンピシャであり、正論であるも、何故か反抗したがってしまう気に食わない教師の長とも言うべき存在。
今自分は、それと同じような連中に説教を受けている。


(まさか、高校出てもこんな事になるとは‥‥‥)

18になって、高校を卒業して、自由の身となって、色んな国を旅して、それでも大人達に未だ叱られてしまうとは。


やっと厳しい注意から逃れたルリは、仕方が無いからこの駅から降りて探してみようという事にした。
だが、
「おーい! 待ってくれぇ!!」
駅のホーム中に野太いが、優しい声が響き、思わず足を止めて振り返る。
すると、自分に向かって白髪で、髭がふさふさと生えたスーツの老人が小走りしている。
そして、たった短い距離なのに手を膝につけて疲労している。

「いやぁ、やっと追いついた。 き、君だったよね。 あのテロリストを倒してくれたのは」
「そうだが‥‥‥誰だあんたは」
あまりに疲れて軽くむせた老人にすら、心配の表情も見せず、ルリは冷たく言い返した。
しかし、それを気にせずに、フレンドリーに接してくる。
「ああ、私はライド・ボルフェロスと言ってね。 これでも国軍中将なんだが‥‥‥」
中将といえば、十数個ある軍階級の内、4番目の地位。
相当偉い人間だが、この国のものではない、ルリには全く興味のない話だ。
「…で? まさか中将としてあんたも説教する気か?」
面倒臭いが、別にかまわない。
そうした、諦めにも似た感情を込めて言ったが、その答えは違った。
「何を言っているんだ。 確かに軍人としてならそうではあるが、今回は私はプライベートなものでね‥‥‥。 とは言っても前に家族で遊園地行ったときもテロリストに襲われたから「今日も」、なのだがね」
「訊いていない。 何の用だ」
陽気に笑う老人には愛着は沸くが、ルリにとってはどうでも良かった。
むしろ、その図々しい態度に苛立ちすら覚えている。
そんな彼に気づいていながら、しかし不満な顔にならず、
「いやぁ‥‥‥あのテロは用心である私を狙ったのだがね、君が彼らを止めてくれたおかげで無事に助かったのだよ。 ぜひそのお礼をしたいのだが‥‥‥そうだ私の家に来ないかね? たくさんご馳走するよ」
と、頭をボリボリ掻いて高笑いした。



———————何を言うかと思えば‥‥‥



「いらない事だ。 別にお礼なんてしなくても良い。 それよりもやるべき事があるからな」
そのどこまでも冷たく突き放すルリの態度に頭を抱え、「うーん」と呻ったライドは自分の財布から10000z(ゼル)札を10枚取り出すと、それを押し付ける様に彼に渡す。
「おい、こんなものも要ら————————」
「まあ良いから受け取りたまえ。 私の気が済まないから。 ほら」
押し返す行動と言葉で否定するルリに負けじとお節介を押し付け、そのまま彼は離れて去ってしまった。




———————本当に人間はいつまでも勝手で




———————同じ人間を脅かそうと思えば




———————俺のような奴にもこんなお節介をする













「本当に————————勝手だな」








    勝   手   な   人   間   達   終