複雑・ファジー小説

Re: Gray Wolf  移りました ( No.78 )
日時: 2011/05/17 20:31
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 最近ライト・コメディ小説に興味を抱いた。

   第



   4

              謎

   9



   話



先程まで居た街は、北西区のシュルバリアと言う街だ。
そして、ロートスシティには一番速い快速列車でも2時間弱はかかる。
だから、その間、列車の中で暇を潰すわけだが———————


「‥‥‥」


「‥‥‥」


ユナが慎重にユーリの手に持つそれをゆっくりと取ろうとする。
しかし、それらの内、どちらが当たりなのか、決めようにも踏ん切りがつかない。
決死の覚悟で、左にあったそれを抜き取ると————————



「やったあ!」
流石に車両内なので大声は出せないが、しかし喜びを行動と声でユナは表した。
自分に持つ一枚のトランプと、取ったトランプを照らし合わせ、同じ10である事を確認して投げ捨てる。
「これで俺とユナちゃんで6対1。 やっと勝てたな」
「はい! あ、もうすぐ着きそうですね」
そう言って、窓の方を向き、外を恋しそうに見ている。
その動作が何を意味しているか、それを分かっていたユーリは息を一つついて口を開いた。

「俺、一度あいつと戦り合ったんだわ」
淡々とそんな事を言ったから、はじめは意味が分からなかったが、段々と理解するようになり、少し身を乗り出す。
「今は大丈夫だけどな。 ただ、気になる事があるんだよ」
「・・・何ですか」
最初に会った時の様な、用心する様な声で訊く。
それを分かっていて言った訳だから、それで残念そうにする素振も無く、話を続ける。
「あいつはあるマフィアを追っていた。 一般人に危害を加えていると思ったから俺が割って入った。 その後で理由を知ったんだが、どうも不自然なんだよ」


あのマフィアの者達は自分のファミリーの裏切者を処刑するために殺そうとしていた。
そこをルリが止めたなら分かる。

だがしかし、止めるだけに留まらず、剣を振るって追いかけるだろうか————————



ただ割って入った者を、簡単に敵と認識するほど、余裕が無いような事だったか—————————





「それともう一つ」
何か心当たりがあるのか、ばつが悪そうな顔をして身を引くが、ユーリの口は止まらない。
「あいつは俺にお前を探すよう頼まれた。 その時に『警察や軍に頼めば早く見つかるだろう』と言ったんだ。 けど、あいつは『表の人間に探させるわけにはいかない』、そう言った」
顔を更に俯かせ、それはかなり思い詰めたものだった。
「‥‥‥何があった」


何故必要以上にルリはマフィアを追ったのか。

何故普通の一般人と同じようにしか見えな少女が表の人間に探させるのがダメなのか。


「・・・それは‥‥話すことは出来ません」
だよな、と言って前屈みになっていた姿勢を後ろへ戻し、背もたれする。
それから、大きなあくびをして、
「じゃ、俺ちょっとだけ寝るわ。 着いたら起こしてくれな」
と言って、その体勢のまま眠る。
その様子を、ユナはただ見つめる事しか出来なかった。
そしてすぐにまた外に顔を向け、寂しそうな顔をする。











————————ルリ、早く会いたいよ














—————————



「‥‥‥」


「‥‥‥」


キョトンとして目を開いているシエラに、ユーリは笑ってそう言った。

「え‥‥‥」
「だから、あいつが来るまでの間、ユナちゃんを此処に泊めさせるってのは、無しかなぁ〜って」

シエラ達は両親が仕事で一ヶ月に一度二度帰ってくるぐらい忙しい。
その上ユナとは同年代なわけだから気兼ねなく一緒に過ごせるかと思い、ここを選んだ。

しかし、ちゃんと聞いていなかったのか、理解していないのか、疑問そうな態度をとったのでユーリがまた言う。
彼女がユナである事と、ここまでの経緯を話したのは良かったが、まさか泊められるとは思っていなかったのだろう。
だが、もう一度聞いてようやく理解したら、あっさり
「いいよ」
と承諾した。
それにはユーリにも意外な反応らしく、すこし呆けた様な顔をして驚いていた。
が、微笑して礼を言う。

「ありがとな」

その顔と言葉で少し赤面しながらも、シエラは平静を装ってユナに話しかける。
「よろしくね、ユナちゃん」
「あ、はい! お願いします!!」
ユナは律儀に深くお辞儀をしたが、あまりに深すぎて腰より下に頭が下がっている。
(あがり症なのな‥‥‥でもそこもまた可愛いな‥‥)
ユーリはその様子を見ながら密かに考察という名の、分析という名の変態行為をする。




「ここが私の部屋だよ」
シエラはユナに自分の部屋を紹介し、ドアノブに手を掛ける。
そうして開き、部屋の中を見せた。
机と椅子、テーブルと個室用の小さなソファー、タンスやその上にあるぬいぐるみ達、そしてベッド。
その他にレースのカーテンなど、女の子らしい部屋の典型とも言える。
「あ、ちょっと待って、着替えるから」
シエラが学校帰りに気がつき、ユナの手を引く。
「ユナちゃんに合う服も探すから着てみてよ」
「え? でも私はこれで大丈夫だよ」
困惑する彼女を後ろにいたユーリが背中を押して連れ込む。
「ほらほら。 女の子は女の子同士仲良くしろって」
とうとうユナは部屋に連れられ、ユーリだけを外に残してシエラがドアを閉める。


が、


十数秒してから彼は周りをキョロキョロし、誰も居ない事を確認してから彼女の部屋のドアノブに手を伸ばした。
そして終にそれを掴み、ゆっくりと回し、そっと開ける。






「覗いちゃ駄目ええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」







が、赤面したシエラが思いっきり開けたドアによって横に大きく吹っ飛ばされた。
そこでようやく自分の行動を冷静に判断できるようになったシエラは慌てて倒れているユーリに謝って、
「あ、ご、ごめんね!!!!!」
そのままバタンと勢い良く扉を閉めた。












            謎





            終