複雑・ファジー小説
- Re: Gray Wolf ( No.90 )
- 日時: 2011/06/05 11:29
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 最近ユーリ視点のグレウルのネタを夢で見た俺は末期
第
5 1 帰 還
話
束ねた長い黒髪を揺らしながら、彼は街中を歩く。
結局この一週間では、見つかる事も叶わなかった。
服装が服装だけに目撃情報はあったのだが、何処を探しても居なかった。
もしかしたらユーリが見つけたのかもしれないが、そこで心配な事は彼女の正体がばれないか。
ばれたとすれば、殺されないまでも、取引の要求は免れない可能性だってある。
何故なら自分達は——————————
————————やはり頼んでおいたのはまずかったか‥‥
ルリはそんな事を思いながら階段を昇った。
そうしてドアの前に立ち、インターホンを押す。
しかし、この家の主、ユーリの応答はまだ無い。
暇だからドアに張ってあった紙でも見ようと適当に視界の中に入れた瞬間、その目が大きく開いた。
そこに書いてあったのは、簡単に書いた地図とメッセージが書かれていた。
ヴェルゲンズ語ではなく日天語で書かれていた事から、ルリに宛てた物だと即座に分かった。
だが、驚いたのは文字が器用に書かれていたからではなく、その内容。
『今すぐ↑の所に来い!』
その上に描かれていた地図には、赤丸に囲まれた四角があり、その赤丸から伸びた矢印付きの線を辿るともう一つの赤丸に着いた。
恐らく、最初の赤丸は今居るユーリの家、矢印線の先は何かの建物。
ルリはその紙を睨みつけ、バンッとドアを思いっきり叩いた。
ピンポーン
そんな電子音が鳴ったのは、シエラの家であり、リビングに居たアリスは食器洗いをしていた手を止め、布巾で拭きながらパタパタと駆けて行く。
「はいはーい。 ちょっと待ってくださーい」
何度も何度も鳴るインターホンに、意味も無く返事する。
そしてドアノブを握り、回してすぐに開いた。
「どちらさま————————」
それ以上何も言わなくなったのは開けた瞬間に首筋に当たった物を見たから。
正体が分かると、今度は悲鳴を上げようとしたが、恐怖のあまり喉が強張って声がでない。
無理も無いだろう。 巨大な剣の刃が当たっているのだから。
持ち主の男は、見た者に恐怖を覚えさせる顔でこう呟いた。
「今すぐユーリ・ディライバルの許へ案内しろ」
「それでだな、この前シエラのところに行こうとした時に‥‥」
「ええ! そうなの! 怪我とかしなかったの?」
「‥‥‥お前その直後に会ったろ。 俺の体に傷が一つでもできてたか?」
ユーリ、シエラ、ユナが部屋の中で話している。
楽しそうに、笑いながら。
その声の中に、何かを叩く様な音が聞こえ、次第にそれが階段を掛ける足音だと分かる。
足音が段々と近づき、一瞬止まったかと思うと————————
「ユーリ・ディライバル!!!!!」
突如、自分の名を叫ぶ声が聞こえ、同時に巨大な刃が頭上から落ちてくる。
座ってる状態だが、すぐさま刀を取り、前方の横に倒すようにして構え、その一撃を間一髪で防御した。
が、余りにも重く、その上覚えのある重量。
自分の動きをその一振りで抑えつける者も見覚えがある。
「ル・・・リ・・・・・・?」
回復し切っていない体で、しかもソファーから立ち上がりかけた瞬間の状態。
防ぐには分が悪すぎる体勢であった。
そしてそれを抑えつけているのは殺気に満ちた目で、反撃の余地を与えまいと全力で力を入れているルリ。
しかし、最初に会った冷ややかな殺気とは別に、怒りに満ちたそれが彼には宿っている。
「な、何の真似だっつの・・・! 俺何かしたか?」
「ふざけるな! お前、ここまでしてよくも‥‥‥!!!」
辛そうにもはっきりと述べるユーリに更に怒りを覚えたルリは大きな声で言い放った。
が————————
「ルリ?」
たった一言。
横から入ったその一言でルリの目には殺気が無くなり、逆に呆けた顔になっている。
その顔を段々と横に向け、視線をシエラのベッドに普通に座っていた少女、ユナに合わせていく。
静まった空気の中、最終的に彼女を視界の中央に捉え、開けていた口を一度閉じてからもう一度開く。
「え‥‥‥?」
帰 還
終