複雑・ファジー小説
- Re: Gray Wolf ( No.94 )
- 日時: 2011/06/18 21:56
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: 最近ユーリ視点のグレウルのネタを夢で見た俺は末期
第 話
5 3
優 し い
人 た ち
「何で無いんだよ・・・・・・」
場所をリビングへと移し、ソファーに座って腕組みしながらユーリは溜息を吐く。
テーブルを挟んで、対となっているもう一つのソファーにはルリとユナ。
2人とも頭を下げ、同じく溜息を吐いた。
「本当にすまない・・・」
「ごめんなさい・・・」
謝っても金は出ないから仕方が無い。
そう思いながらユーリは後ろへ倒れ込み頭の後ろで腕を組み直した。
「つーか気になんのは、お前らどうやって稼いでたんだよ」
「今までは取り合えず用心棒まがいの事をやっていた。 最初はうまく稼げたんだが、治安の良い土地になると急にそれを求める人が無くなり始めてな」
(そりゃそうだ)
何でも屋を通して傭兵や用心棒の経験が豊富にあるユーリにはその手の事は知っている。
そういう仕事が来るのは大抵夏や冬の中盤だ。
その時期には里帰りという事で田舎に帰る者達が多い。
が、列車も通らないような田舎にもなれば歩きなどの手段しか無い為、キメラなどから護られるシステムがないのである。
そうでなくても、例えば大雪が何日も連続して降った日の場合、列車自体動かない。
この世の中において、列車、飛行機、船などといった物は防衛システムがついている関係もあって非常に有力な移動手段だ。
だが、今は5月下旬。
ユーリの様に軍や傭兵団が隅に置けないような人物ぐらいしかその類の依頼は来ない。
「はあ‥‥‥まあ金がないのか‥‥‥じゃあ・・・」
そこで一拍置いて、もう一度口を開く。
「体で払ってもらうしかないか‥‥‥」
固まって、それからユナは涙目になりながら赤く染めた顔だけルリの後ろに隠す。
そんな彼女をルリは右手で護る様にしながら、顔をしかめた。
「お前! こいつに何を求めてんだ!!!」
「お前らは一体何を勘違いしてるんだ」
ユーリの家は二階建ての建物。
しかし実際にユーリが使っているのは一人暮らし用にリフォームされた二階の方で、それは外に設けられた階段で行くことができる。
そして一階にはユーリにその部屋を与えた———————
「はい! それじゃあ2人とも! 今から一般的なイチゴのショートケーキの作り方を教えるよ!!!」
ボブの髪を下げ、カチューシャによって前髪が目にかからない様にした女性がエプロンを着用したルリとユナに指示を出す。
そのそばにいかにもパティシエのような格好をしたユーリが立っていた。
実際ここは洋菓子店なわけで、三ツ星パティシエールのセルア・アリシエが店主として経営している。
彼女の夫は現役の軍人で、現在は中央区の街勤務で別居しているため、使わなくなった二階をユーリに与えているのである。
ユーリの料理の腕は彼女の施しによるもので、故に彼は特に菓子作りに関しては引けを取らない。
そして、ユーリが言った『体で払う』と言うのは彼女の経営する店、『プリズム』で働き、足りない分の料金をまかなうと言う物だった。
ユーリの所で働かせるのも手だったが、彼女の店は常に席が埋まっていた為、稼ぐならそっちが都合が良いと判断したのだ。
しかし、中々思うようにもいかなかった。
二人揃って、スポンジ生地を焦がしてしまったり、クリームの塗り方が偏っていたりしている。
その上、ケーキのカットも角度がバラバラで三角に切ったつもりのそれは形を維持できずにどんどん崩れていく。
当然剣術と料理は直接的に関係してるわけではないからルリもナイフの扱いは料理になると最悪で、切り方は完全に豪快なぶつ切り。
ユナは切る際にケーキを抑えようとしたところ、無駄に力を入れて切る前に潰しかけてしまった。
作り方を教えるだけ教えたセルアに頼まれて後の二人の監督をする事になったが、ここまで酷いとは正直予想にしていなかった。
取り合えず彼女には『何かあったらコツを教えるように』と言われているし、あまりに痛々し過ぎるため、溜息を吐きながらゆっくり立ち上がる。
「えっとだなぁ‥‥‥まず最初にスポンジケーキだけど・・・・・・グラニュー糖入れたら泡立てる前にお湯で温めたほうがいいぜ」
「え? そうなの? でも沸かした泡でぼこぼこになりそうな気が・・・・・・」
「何も沸騰させろとはいってねえよ。 そうだな・・・まあ、自分の体温と同じぐらいにすりゃあいいさ」
それから・・・・・・とどんどん説明を付け加え、何度も作り直しては失敗したが、着々と上手くなっていく。
2時間も経つと中々の物に変わっている。
一番最初に作った物と比べれば違いは著しかった。
「ねぇルリ」
「ん?」
休憩時間。 ユーリがトイレに言っている間、椅子に座ったユナが同じ状態のルリに話しかけた。
「ユーリさんもシエラちゃんも・・・・・・それからセルアさんも・・・優しいね」
辿っていく様な緩急の付け方で話し、ルリの顔を覗く様に見る。
「そう‥‥‥だな」
「もしかしたら・・・さ、私達の事知っても‥‥大丈夫なんじゃ・・・・・・」
‥‥‥
「そうかも・・・・・・な」
流石にそれには素直に反応仕切れなかったが、そうかもという思いが頭を縦に振らせた。
————————もしかしたら
————————どうだろうか・・・・・・
優
し
い
人 た ち 終