複雑・ファジー小説
- Re: たんぺんしゅー。 ( No.5 )
- 日時: 2011/05/21 12:51
- 名前: 白兎 (ID: A6MC5OIM)
「おはよっ」
いつも通り学校に行き、靴箱に靴をしまい込んだ。
すると、後ろから 元気な可愛らしい声が響いた。
その声の主は、後ろを振り返らなくてもわかっていた。
「おはよう」
やはり、それは彼女で。
美桜、美しい桜なんて言う洒落た名前の彼女。
もう見慣れてしまったけれど、彼女は全く名前負けしない容姿だった。
サラリと靡く栗色の髪、何処からか香る優しい匂い、大きな瞳。
同性から見ても、とても魅力的な親友だった。
加えて、飾らない無邪気な性格も、彼女の魅力の一つなんだろう。
「教室まで、一緒に行こう」
そう言えば、美桜は「うん」と微笑んだ。
……キミは可愛いよ、うん。
2限目に体育があって楽しみ、だとか
1限目は数学があって嫌だだとか、
教室までの間、そんな何て事の無い会話をした。
無意味に思えるお喋りも、その時はとても楽しいものなのだ。
2人の笑顔はなかなか絶えなかった。
けれど、また後ろから響いた声に、
私の顔は強張ってしまう。
「おはよ」
すこし、低くて
けど優しい、そんな声。
「稜太! おはよ〜」
美桜は笑顔で彼に言う。
それは、心なしか先程よりも良い表情をしていた。
それは、当たり前なのかもしれないけど。
だって、2人は
付き合っているのだから。
「おら、千恵子。挨拶返せや。無礼だぞ」
「ああ、ごめん…って、何でキミはそんなに偉そうなのかな?」
「いつもだろ」
「ああ、そーでしたねー…」
千恵子、は私の名前だった。
今時「子」が付いてる名前って、そう無い気がするんだけど。
「おはようごぜーますー」
「何だその言い方」
「うるさいよ」
軽く口喧嘩が起こるのは、いつもの事だ。
「仲良いね」
「「何処が」」
良いけど。
良いけどさ。
明らかに友達のノリでしょ、これは。
…あーあ。
“友達”ね。
馬鹿みたいだ。
自分で使った言葉に傷つくなんて。
私は、稜太が好き。
けど、美桜も好きなんだ。
友達だから。
だから、この想いを伝えるなんて出来なくて。
……それは、言い訳なのかもしれないけど。
「……あれ?」
私は、稜太の指を見た。
彼の長い指に光るもの
それは、シンプルな指輪だった。
美桜の方に目を向けると、
彼女の指には予想通り、彼のとよく似たリングがはめられていた。
「……ペアリング?」
私がそう発すると、彼は恥ずかしそうに顔を背けた。
「うん」
そう答えた美桜は、やっぱり笑顔。
頬をすこし紅く染めた2人は
なんだか、とても幸せそうで。
続く
>>06