複雑・ファジー小説

Re: たんぺんしゅー。 ( No.9 )
日時: 2011/06/04 21:06
名前: 白兎 (ID: A6MC5OIM)





「ちーっす」


ガラッと、無遠慮に扉を開けた。


「失礼しますだろうが」

保健室の奥で聞こえたのは、艶があるが低い声。
全く、何でウチの保険医は男なんだか。

「別に失礼なんてしないんだし良いじゃん」
「お前の存在がまず失礼だろ」
「うわ、先生ひでぇ」
「うるせぇ。どうせサボりだろ」

しかも、この保険医。
保険医のくせにちっとも優しくない。
それどころか、元ヤンだなんて話もある。まあ、噂だけど。
けど、その噂のおかげでサボりに来るような輩はほとんどいない。
……俺を除き。

「いや、寝不足でさー」
「で、寝かせろと」
「そういうこと」
「つまりサボリじゃねぇか」

あははと笑えば、ため息をつかれた。

「昨日 寝てねぇのか」
「うん。オナ【ピー】してたら寝らんなくなっちって」
「んな事してねぇで早く寝ろガキ」
「いや、ガキだからこそ寝られないんでしょ」
「分からなくもないけどな」
「いや分かっちゃダメでしょう先生」

「まぁいいや。勝手に寝てろ」

俺との会話に飽きたらしい。
先生は俺から視線を外し、何やら書き出している。

「なに書いてんのー?」
「あ? 保健室の利用者を記録してんだよ。
お前の容態は……頭痛でいいよな」
「先生、そんなんでいいんすか」
「サボリって書く訳にいかねぇしな」

教師って、案外 楽なお仕事みたいです。



布団に潜れば、どっと睡魔が襲う。
それに従い、瞼を閉じた。






目が覚めたのは、ガラリと開く扉の音だった。

それは、俺の時より遠慮がちだ。
「失礼します」と言った声で、それは女生徒なのだと分かる。
ただ、少しハスキーな声だ。
誰だっけ。聞きなれた声のような気がした。
っていうか、先生の声がしないのは何でだ?
多分、また煙草でも吸いにいったとかだろうな。


女生徒は、俺の隣のカーテンを開けた。

「りゅう、大丈夫?」

誰だろ。竜って。
寝てる間に、隣に寝てる奴がいたんだな。


「大丈夫ですよ」

そう言った声は男で、けど柔らかい、穏やかな声だった。

「……熱は、何度だって?」
「8度5分って、先生が」
「そっか…。先生はいないの」
「煙草吸いに行くって言ってました」

なるほど。
熱で寝込んだ後輩を心配しに来た先輩ってとこか。
っていうか俺、盗み聞きしてるみたいじゃね?
そしてやっぱりあの人は煙草だったか。

「先輩、今日も一緒に帰れますか?」
「今日は…ちょっと部活が」
「お願いします。ちょっと…辛いので」
「……わかった。顧問に適当に言っとく」
「すいません」
「気にするな」
女生徒は小さく笑った。

っていうか、さっきから思ってたけどこいつらカップルか?
どうしようこのピンクオーラ。
何かイライラするんですけど。


「ありがとうございます。秋良さん」

アキラ?
……あの、ハスキーボイス。

あの秋良?



続く
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