複雑・ファジー小説
- Re: たんぺんしゅー。 ( No.12 )
- 日時: 2011/07/25 16:11
- 名前: 白兎 (ID: LCLSAOTe)
あの日から三年経った今。
独りぼっちの部屋で母のことを思い出していた。
部屋の中はとても小さく、机や椅子も私には小さすぎた。
それはきっと、異様な光景にみえるだろう。
私自身、初めはまるで自分が大きくなったかのような感覚を覚えることもしばしばであった。
まあ、此処に世話になり月日の経った今なっては、見慣れた光景なのだが。
この家は、小人と呼ばれる民族がひっそりと暮らす場所だ。
名の通り、女の私の三分の二程度しかない彼等は、誰とも知れない他民族の私を簡単に受け入れてくれた器の大きい男たちだ。
彼等 小人民族は不死故に性交する必要がない。
初めは、優しすぎる彼等を不審に思ったこともあったが、そんな心配は要らなかった様だ。
疑ってしまい申し訳なく思うが、仕方ないことだろう。
今の世は物騒。
若い娘が気軽に人気の無い場所を歩けるほど平和でも無い。
しかし、彼等は本当にどこまでも親切で、おおらかで陽気な良い人達だった。
私は、いつの間にやら彼等が大好きになってしまったらしい。
ただ、彼等には少々頭が弱いという弱点もあるのだが……。
何故 一人きりなのかと言えば、彼等は小一時間ほど前に食料を調達しに出掛けて行ってしまったからだ。
私がご飯を食べられるのは、彼等のおかげだ。
屋敷に居た時のような高価な物は無いが、それでもありがたい。
本来なら居候の私がたくさん働くべきであろうが、彼等は私の身を心配して、外へは出してくれないのだ。
だから、私の仕事と言えば掃除、洗濯、皿洗い程度。
ちなみに、料理はしない。
理由は聞かないで欲しい所だが、自分に都合の悪いことは言わないというのは母の教えに反してしまうのだろうか。
簡単に言えばただ料理が苦手だから、だ。
仕方ないであろう。
私は名家の生まれで、そのような家事とは無縁だったのだ。
来たばかりの頃は掃除や洗濯すらも上手く出来ず、彼等を困らせたものだった。
それに比べれば、とても上達した。が、料理はいつまで経っても上手くこなせない。
もっと彼等の役に立ちたいのに。情けない。
まあ、自虐などしても何も変わらないのは分かり切っている。
そう言えば、まだ朝餉の片付けが済んでいなかった。
それを片付けるとしようか。
ああでも、その前に。
壁に掛けてある紙に目を向けた。
そこに書いてあるのは昨日の日付。
その紙を一枚捲れば、出てくるのは今日の日付。
自作のカレンダーだった。
此処は、深い緑に覆われた森。
今日がいつなのかさえ分からない場所。
本当はそのカレンダーの日付は出鱈目だ。
何日過ぎたかわかれば、それで十分だからだ。
一年が過ぎたのが分かれば、それで。
一年毎に、あの人はやってくる。
昨年は毒の花。
一昨年は毒の櫛。
今年は、何を持ってくるだろう。
あの、真っ黒な人は。
1年毎に来る事を、彼等は知らない。
そんな事を考えられる頭は無いはずだ。
もしそれを知っていたなら、私を残して出かける事はないだろう。
「今日は森の最奥にある木の実を食べたい」と私が言っても、彼等は出て行かなかっただろう。
今は独りきりだ。
殺すのには、絶好の機会だろう。
きっとやって来る、あの人は。
母はやって来る。
3年以上前のあの日、私は屋敷を後にした。
猟師の男と、狩猟のために森に出掛けた。
狩猟など、男が楽しむためのもの。
何故連れて行かれたのか、不思議に思った。
けれど、母はいつも通りニコニコと微笑んで見送ったから、
きっと大丈夫だと、そう思ったのだ。
けれど
「白雪様のお義母様は、貴女を殺そうと企んでいられます」
「逃げて下さい」
あの男はそう言った。
嘘だと叫んでも、あの男はそれを認めなかった。
違う、絶対に違うと喚いても、本当なのだと言った。
真っ直ぐな目だった。
あの男の話は、本当だったのだろうか。
多分、そうなのだろう。
最初に毒櫛が届いたときには悟っていた。
遠目に見た黒服の女は、母によく似ていた。
何故だろう。
何故、母は私を殺そうとしているのだろう。
母と私には、血の繋がりは無い。
実の母が死に、父が新しく迎えた女が母だった。
母を亡くしいつも裾を濡らしていた私に、義母は優しく微笑みかけた。
母と義母は全く似ていなかったけれど、
笑顔だけは何処か似ていた。
私は義母が、いや母が大好きだ。
なのに、なのに。
コンコンと、扉を叩く音がした。
扉の鍵穴から見えたのは、黒い服。
ああ、来てしまった。
「——はい、すぐに開けます」
扉を開いて、現れた黒服の女。
もとい、母。
見紛うはずが無い。
母だ。私の母だ。
黒いフードに包まれ、口元だけが垣間見得る。
紅い綺麗な唇が動いた。
「……林檎は如何ですか?」
「——…頂きます。」
†アトガキ†
文面が堅苦しいですね。
怪しい女から林檎を受け取った白雪姫は、何を思っていたのかな。
そんな妄想文。
その後は皆様の妄想に任せます。
そう言えば、鍵括弧の最後には句読点は付けちゃいけないんだっけ。
あえて、ってことにしておきます。