複雑・ファジー小説

Re: 百万回生きたひと ( No.1 )
日時: 2011/04/16 02:11
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: L7bcLqD7)

 魂は輪廻して巡り巡るもの。これを一般的に『輪廻転生』という。
本来なら一回一回死ぬ度に、不要になった『前世の記憶』は消えてしまう。

 でも神サマのサボタージュなのか仏サマの職務怠慢なのか、この世の森羅万象にはたまーにイレギュラーが発生する事がある訳で。
このひとはそんなイレギュラーの一例。

 そのひとは百万回死んで、百万回生きた。
 あるとき、そのひとは普通の平凡な少年だった。
普通に悲しい事があって、普通につらい事があって、老いて死んでしまった。
 あるとき、そのひとは街の暴れん坊だった。
ある日、一人でいたところをよってたかって殴られたり蹴られたりして死んでしまった。
 あるとき、そのひとはピアニストだった。
ある日眼が見えなくなり楽譜を書けなくなったそのひとは、絶望して自分の手首を切って死んでしまった。
 あるとき、そのひとは大富豪だった。
お金を目当てにたくさんの人が群がったけれど、病で死んでしまう時は一人ぼっちだった。
 あるとき、そのひとはお侍だった。
お殿様に忠実に働いたそのひとは、最期はそのお殿様に捨て駒として扱われて自分の腹を斬ってしまった。
 あるとき、そのひとの人生はとてもとてもひどいものだった。
それは言葉なんかで表せないほど、ひどいものだった。

 あるとき、そのひとは少年だった。
少年はとても頭が良くて、運動神経が良くて、なにより、自分が大好きだった。
少年は制服姿で、ある高校の屋上で言った。

「ボクは百万回も死んだんだぜ。今更可笑しくって!」

 どこかの絵本で同じような事を言っていた気もするけど、その本のタイトルさえ忘れてしまった。