複雑・ファジー小説

Re: 百万回生きたひと ( No.3 )
日時: 2011/04/16 03:34
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: L7bcLqD7)

 路地裏で、誰かをけっとばすような鈍い音と、誰かにけっとばされたような鈍い声が聞こえる。
けっとばしているのはジャージ姿の少年で、けっとばされているのはピアスをたくさん付けた短い金髪の少年だった。
 金髪の少年は口を切っているみたいで、ついでに顔が腫れあがっていた。
 ジャージ姿の少年は金属バットを金髪の少年に、おもいきり振り下ろした。
いやな音といやな悲鳴が暗い路地裏に響く。



 ジャージ姿の少年は、この界隈ではちょっと名の知れたフダツキ少年だった。名前は一樹って言う。
一樹は自分にインネンをつけた相手なら誰彼構わず半殺しにして、誰彼構わず半殺しにできるほどの暴れん坊。
お母さんもお父さんも知らない。ある日勝手に家を飛び出してきて、それっきり。
 一樹は今日も周りを睨みつけながら夜を歩いていた。そしたら何人かくらいの軟派な集団がつっかかってきたもんだから
片っ端から叩きのめして路地裏からドブ川に捨てて、最期の一人の頭を金属バットでたたき割ってやった。
頭から血を流している金髪の少年のポッケをまさぐると、案の定センスの悪いサイフが出てきたので
お札を全部抜きとってサイフは生ゴミでいっぱいになった水色のゴミ箱にポイしてしまう。このお札は一樹の貴重な収入源だ。
 リズムもおぼつかない鼻歌に合わせて、一樹はご機嫌に表通りに出て行く。



 一樹はコンビニはそこそこ好きだった。それが無ければ一樹はご飯を食べれないし、暇な時は漫画を立ち読みできるから。
ただ、誰かが立ち読みしている時に自分が立ち読みするのは落ち着かないし、自分が立ち読みしている時に誰かが来るのもあまり好きくない。
「…………」
 でも今まさに、一樹は後者の状況だった。
スウェット姿の男は茶髪を後ろで束ねていた。身長は一樹とは対照的に、高い。
それらとその他諸々気に食わない要素が相まって(愛読してるマンガの新刊が中々出ない、毎週読んでいる週刊誌が今週は合併号)、一樹はとても不機嫌である。
あまつさえスウェットの男は時々こちらが読んでいるのを覗き込んでくる。
只でさえ短い一樹の堪忍袋はもう切れる寸前。
今すぐにでもこのスウェットの男をハッ倒したい一樹だが、さすがにこのコンビニを出入り禁止にされたくはない。
コンビニ出たところを速攻ぬっころしてやろうか。うん、そうしよう。
マンガを閉じて、硝子の自動ドアへ向かい。