複雑・ファジー小説
- Re: キーセンテンス 返信20、参照200突破っ。 ( No.21 )
- 日時: 2011/07/28 22:11
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
あの後、涙の家に行くが、何故だか涙は家に居なかった。
時刻は2:40になっていた。約束の時間から4時間強過ぎていたこともあって、俺も諦めがつき、涙の家からトボトボと帰宅することにした。
それから、家に帰って普通にゴロゴロとし、翌日の日曜日に涙から怒りの電話がかかってくると思いきや、そんなことはなかった。
普通なら、涙のことだから怒りの電話の一つや二つは当然のことだと思っていた。そりゃ、俺が悪いし。
非を完全に認めていた俺からすれば何とも拍子が抜けた感じがしてならない。
俺は嘆息すると共に、日曜日はまたまた怠惰な日々を過ごしたのだった。
朝。何で毎朝という言葉があるんだろうか。
毎回と朝をくっつけた感じ。毎回朝なんて来なくても別に俺は全然構わない。そんなことを思った。
でも、一昨日のように生命が生まれる瞬間が沢山あるとするならば……それは勿論、朝は来たほうがいいに決まってる。
ずっと暗いままの世界なんて、赤ちゃんはきっと死んでしまうと思ったからだ。
「さて……行くか」
こんな単純細胞な俺でも、色々と分かることは多い。
俺の部屋は汚くは無い。だが、掃除はしていない。掃除するほど散らかすことが全く無いからだ。
それが喜ばしいことなのか、それとも残念なことなのかは分からない。
けれど、楽に済む辺りからは良いのだろう。
そして、何より俺の朝食は美味い。
毎朝作ったり、作らなかったりを繰り返しているせいか、次第に上手になってきた。
今日もまた、適当に作れるスクランブルエッグを作ったりした。好みの味に変えて——うん、最高だ。
こんな感じに、俺だって学習機能ぐらいついている。単純細胞なのは認めるけどな。
ちゃんと制服だってアイロンかける時もある。かけない時の方が多い気がするけどな。
シワシワだとやる気が失せる。自分で言っててやらない辺りがどうしようもなくバカだなぁ、と自分でも思う。
いつもはくだらない日常で、学校があるのだけれど、今日は少し違う。
転校生が、来るらしい。
いつもの通りの時間に、いつもの通り桜の木がある丘の方まで行った。
まだ桜はしぶとく咲いていて、雨でも降って早く散らないかな、なんて思ったりもする。
でも、こうやって満開に近い桜の木を見ていると、何だか全てを忘れられるような気がした。
忘れてはいけない、ことまでも。
「此処に来て、何でも忘れられるなら世話ねぇわな」
丘には、あの転校生である潮咲 桜の姿はなかった。
自分自身を鼻で笑い、本を入れているため、少し膨らんでいるように見えるバックを持って、俺は早々に丘から立ち去った。
そして学校。何回見ることになるんだろうか。
俺の横を通り過ぎていく生徒は、誰も俺に挨拶というものを交わさない。知らない人なんだから当たり前か。
「あ、あああ、あのっ!」
誰も声をかけられずに、俺は教室に行くのかと歩いていた時だった。
後ろの方からやたらと焦っているというか、興奮しているというか、何せ慌てている声が聞こえてきた。
勿論、聞き覚えバッチシだ。だから普通では何だか面白くない感じがしてきたので、俺は少し声の主のことを無視してみた。
「あ、あのっ! 暮凪君っ!」
俺の名前を呼んで食い下がる声の主に、何だか可愛いく思えてきた。健気だなぁ、なんてのを思いながら。
更に無視して歩いてみると、途端に「……ぅう」と、うめき声にも聞こえる鳴き声的なものが後ろから聞こえてきた。
(マズい……泣かせてしまったか?)
反省したのと同時に焦った俺は、後ろを振り向いた。
すると、半泣きの雪ノ木が凄い勢いで——俺に飛び込んできた。
「って……!」
少しよろけながらも、半泣きで目を閉じたままの雪ノ木は手を伸ばして俺を倒そうとしてきたみたいだが、力が弱かったし、何より俺は後ろを丁度振り向いたところだった。
つまり……俺は雪ノ木を支え、いつの間にか抱き締めてるような状況に陥っていた。
「暮凪君のバカァッ!」
「ええっ!?」
この状況で、結構大声で言われながらこの体勢。これは、かなりマズいんじゃないか?
今俺たちがいる場所は、靴箱へと向かう間の場所。つまり、早朝とはいえ、人の目が多いことを意味している。
「え、あれ雪ノ木さんと……暮凪君!?」
「やだぁ、あの二人出来ちゃってたのー!?」
「マジかよ……雪ノ木結構可愛かったし、狙ってたんだけどなー」
周りからは当然の如く、俺たちを見てご勝手な想像ばかりを口に並べていた。
そんな奴等が、俺は大嫌いだった。
「何見てんだよっ! 見世物じゃねぇんだぞっ!」
俺の怒鳴り声に、噂のようにして言い合っていた奴等は焦って靴箱へと逃げるようにして行った。
朝っぱらから怒鳴らせないで欲しい。全く鬱陶しく、無様で、アホ共の集まりみたいなものだった。
だから俺は大抵の奴とは学校で関わりを持たない。アホと同類はこっちから願い下げだった。
「大丈夫か? 雪ノ木」
「へ……? あれ? 暮凪君?」
この状況が分かっていないのか、雪ノ木は特に驚いた様子もなく、自然にキョトンとした顔で俺の顔を見上げていた。
「な、何だか、暮凪君の顔がとっても近いような気が……」
「そうだな。とりあえず……そろそろ離れられるか?」
「へ?」
雪ノ木は俺の言った言葉の意味がまるで理解できていないかのような感じで、そのまま数秒固まっていたが、ようやく気付いてきたのか、顔がだんだんと紅潮してきているのが見てすぐに分かった。
「わ、わわぁっ!! な、何でっ! きゃああっ!!」
「ちょ、落ち着け! 雪ノ木!」
雪ノ木は何故か俺をドンッ、と突き飛ばすとそのまま靴箱の方へともの凄い速さで行ってしまった。
「一体何だったんだ……」
そんな思いと同時に、雪ノ木を安易にからかってはいけないな、と心に決めた俺であった。