複雑・ファジー小説

Re: キーセンテンス ( No.4 )
日時: 2011/07/01 18:17
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
参照: お久しぶりに更新ですb

教科書も何も、教室に置きっぱなしにしているためにいつも俺の机は教科書で詰まっている。
だが、詰まっているばかりで、それが取り出されることは滅多にない。
ノートはちゃんと広げてある。提出する時とかがあれば、五十嵐からノートを借りたりもするが大抵は面倒臭いのでやっていない。
よくこれで進級できたものだと自分でも感心するほどだ。
周りから見れば、俺は出来損ないなのだろう。出席日数を取っていればいいんだろうな、あいつは。と、そう思われても仕方がなかった。
実際のところ、自分でも学校に行っていることがよく分からないことだってあった。何もやるべきことが見つからないのに、行っても無駄なんじゃないかと思い始めてきていた。

しかし、無情にも時は流れていくばかりで、授業という怠惰な時間は過ぎていった。これも日常茶飯事のことなので気にしないのだが。
昼飯時になり、俺は先ほどの授業を寝ていたということもあって長く背伸びをしてから食堂に向かうことにした。
するとその直後、五十嵐が不意に話しかけてきた。

「司、涙が屋上で待っているらしいぞ」
「あぁ……分かったよ」

五十嵐の言葉を面倒臭そうに返した俺は、頭をボリボリと掻きながら教室を出て行った。向かう先は、もちろん食堂。
飯も持たずに屋上に行っても何の意味もない。食堂に行くと、ガヤガヤと賑わいを見せていた。
人混みがあまり好きではない俺にとっては嫌な場所でもあった。人気ラーメン店とか絶対に行きたくないのもそのせいだ。
たかだか人気のパンかなんだか知らないが、それを争うために揉みくちゃになってまで手に入れようとする奴らを見ると正直呆れる。
そこまでして昼飯のパンが必要かと思う。その労働した後にパンを食ったとしてもプラマイ0に近いだろ。
俺は団体をなるべく避けながら歩いていた最中、ふと騒がしい声の中から気になることが聞こえた。

「転校生が来るんだってよー」

三、四人の男がうどんか何かを目の前に広げて嬉しそうに話している。その話は転校生が来るとかいう話のようだった。そんなにお前ら転校生が珍しいかよ。
勉強ばかりの生活に転校生とかいう話題しか話すことがないっていうのは悲しいことだと思った。
聞いていない素振りを見せながら、俺は自動販売機へと向かう。
この人混みを押し切ってまでパンを買おうとは俺は思わない。面倒臭いし、第一アホらしい。それなら今は飲み物で腹を膨らませておこうと思った。
自動販売機の中から90円の安い紙パックのカフェオレを2,3個買う。今日の昼飯はこれだけだと思うと切なくもなるが、あの人混みに紛れるよりマシだ。帰る時に近くの定食屋に寄って食べればいい。
俺はそのまま足取りを屋上へと向けて歩き出した。




「おっそ〜〜いっ!!」

いつもの怒鳴り声が俺の耳に響く。屋上へ行くと毎度のこと聞くのがこの声だ。これもいつもと変わらず、俺はゆっくりと声のした方へと歩み寄って行く。

「遅いって、まだそんなに時間経ってな——」
「うるさい! 黙れ! こんな美少女待たせておいてなんだその態度ゴルァッ!」

言い訳を毎度のことするが、結構事実を述べているつもりだ。実際に教室から7,8分程度しか経っていない。
涙にこのようにしてボロカスに言われるのも、もう慣れて来た頃合だ。涙の他に女の子が他に二人ほどいるのも。

「あああ、あのっ! えっと、そのっ!」

何故か俺の顔を見て赤面しつつ、バタバタと両手を左右に振っている女子は、雪ノ木 若葉(ゆきのき わかば)。
いつもまったりしてて、話しかけると慌てる変な子でもある。

「おー連休明けで久しぶりー」

と、明らかにゲームと思わしきものを忙しなく指を動かしているロングヘアーの女子は、北條 真希(ほうじょう まき)。
俺とは一年生の時に同じクラスで、意外と話などがあったために結構仲が良い。
ゲームが大好きな奴で、面白い奴でもある。
この三人は大体同じように時間を過ごしている。ゆえに昼時もこうやって集まって食べているみたいだ。
何故俺がこの三人と待ち合わせなことをしていたかというと、原因は例の部活というものにあった。

「あんたねー、部活ぐらい来なさいよ」
「あれは部活とは言わないだろ」
「言うわよっ! 誰がなんと言おうとあれは部活なのよっ!」

涙は自信満々に胸を張りながら言うが、俺にとってはあれは部活といえたもんじゃない。
何せ内容が意味不明なのだから仕方ない。遊びを尊重し、遊ぶことを徹底する部。それが——

「"遊びの音色"は同好会サークルだけどね! 部活は部活なのよっ!」
「その理屈自体が意味不明なんだよ。顧問もいないのに何が部活だ。同好会すらも無理な話だろうが」
「う……! や、やかましいっ!」

悔しそうに地団駄を踏んでいるが、その光景は何度も目にしている。変わっているのは話している内容ぐらいだ。
毎回のように俺が涙を負かして、このようにイラつかせているのが現状。まあ、結構これが面白いんだけどな。

「あ、ああああのっ! 暮凪君っ!」
「お、おう……。どうした? 雪ノ木」

相変わらずもの凄く緊張している感じで話しかけてくる雪ノ木。雪の木は男性に対してこのように緊張してしまう何か精神的なものがあるらしく、毎度のことのように俺と五十嵐や他の男たちに緊張している。
それと顔が赤くなっている、というのもまた面白いとは思うが、男たちはそれらがとてもよろしいらしく、密かに人気が高い。

「ち、ちゅんっ! ……ちゃ、ちゃんと! 部活には、き、来たほうが……」
「あぁ、そうだな。わりぃ」

今噛んだな、なんて思いつつも俺は苦笑しながら言葉を返した。
部活といっても同好会どまりの内容が遊びが主なふざけたものなのだけども。
前の活動なんて色々面倒だったな。最近テレビで鬼ごっこみたいなことをしているのを見た涙がやりたいと言い出してやった都市内鬼ごっことか。あれは最終的に雪ノ木が見つからなくて探し回って終わった記憶があるぞ。
とにかく、くだらない内容が多いものばかりなわけだ。そんな体力だけが無駄に減る部活をして俺は時間を無為に過ごしたくない。——といっても他にやることもないのは事実なわけだが。

「つーかーさー!」
「あ? 何だよ、涙」

俺が返事をした瞬間、目の前に何かが過ぎった。それは——足。
どうやら涙が回し蹴りを放ち、それが俺の目の前を過ぎったそうです。って、待てぇぇっ!

「落ち着けっ! ご乱心か!」
「はぁっ!? 昼飯時に覚えてろって言ったでしょっ!」
「そんな昔のことを掘り返してどうするつもりだ!」
「今日の出来事でしょうがっ!」

お前空手か柔道かしてたんじゃないかというぐらいの運動神経の良さで拳と足を俺に向かわせてくる。
必死に避けるも、遂に逃げ場を失い、そして——

「天誅〜っ!」

そんな言葉と共に俺に衝撃が走り、気を失わざるを得なくなってしまったのだった。




あれは、とても辛い日だった。
俺にとって、一生忘れることが出来ないほどの、辛い、辛い一日。
たった一日だけで、あんなにも心を閉ざすに十分なものを与えられるものだと、俺は世界を恨んだほどに。
それは、残酷な一日だった。

「はぁ……はぁ……!」

俺は走っていた。約束を守るために。
背中でグッタリと、まるで死んでいるかのように青白い血色をして俺におぶられているたった一人の女の子を守るために。
守る、それは俺がただ思っていただけなのかもしれない。誰かがそれを否定すれば、それはそうではなくなる。
結局は価値観で人は見ている。誰かがあの人は嫌だといえば、そんな印象受ける。
そうやって人は人の見定めをする。それを親父を見て早く知った俺からすると、とても息苦しくて、全てを投げ捨てたかった。

——しかしそれは、ある女の子に会って世界は色を失っていたというのに、一気に色を取り戻していったんだ。