複雑・ファジー小説

Re: キーセンテンス 第6話更新 ( No.45 )
日時: 2011/12/15 00:48
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: FMKR4.uV)
参照: テスト終わり、更新復活いたしますb

翌日。いつものように目覚めが悪く起きる。今日も学校なのかと思うと、どうにも憂鬱になってくる。その理由は、部屋の窓から見える曇天のせいなのかもしれないが、幸い雨は降っていなかった。
昨日はあのまま北条の傘を差して帰宅した為、傘も返さなくてはならない。というより、あの雨の中に一人で帰宅させた上に傘を借りるというのは男としてあるまじき行為なんじゃないかと今になって思い始めていた。

「ったく、何やってんだか……」

額に手を当てて、一人部屋の中で呟いた。
今日もまた、潮咲は来るのだろうか。そんなことを思いながらベッドの上から床へと足を付けた。
ひんやりとした感触がどことなく気持ち良い感じがした。
ごく自然なようにため息を漏らすと、すぐ傍にあった制服を手に取ってそれをさっそく着ようとした時、

「うん……?」

丁度着替えようとした時に眼の前に映りこんだもの。それは、カレンダーだった。
カレンダーの今日の日付によると、今日は休みだった。そういえば、昨日、部活動がなかったことなどを見ると、何かを忘れているような気がした。

「あー……」

原因が分かった時、昨日は何故部活動が無かったのかなどの回答がすぐに理解したのであった。
そう、来週から期末テストが開始される予定だった。

といっても特にやることも無く、土曜日だからとか来週がテストだからといって何をするわけでもなかった。
普段から真面目に授業など聞いてはいなかったので、全く分からないどころか、今何をやっているのかさえもあやふやな所がある。前まであまり勉強しなくても何とかやっていけはしたが、さすがに今年からはレベルも上がり、本腰といったところだろうか。勉強という行動に移さなくてはテストなんてまるっきし分かりはしない。
なので、今回のテストはなかなかしてヤバいというわけなんだが……何をするにしても、まず準備が必要なわけで……。けれど、その準備となるノートやらの教材すらもどこにいったか分からないという体たらくなわけで……。
結局、俺は一人で何もすることがなかったのだった。

「仕方ない……誰かに教えてもらうなり、するしかないか……」

赤点や欠点などを取ると、課題などが増やされたり、補習を強制されるようになる。そうなったら面倒なので、ギリギリでもいいから欠点等は取らないようにはしているのだが、前に一度取ってしまったことから先生に目を付けられたりして、色々と愚痴を言われたりもする。元々そんなのは気にせずに、全て無視するような感じで過ごしていたのだが、

「私の部から欠点取る奴を出させない!」

という涙の言葉と努力やら何やらで半強制的に勉強させられ、平均点以上をマークするという快挙を成し遂げた。俺よりも、涙が高笑いをして喜んでいた記憶があるのだが……まあそれはいいとして。

「さて……誰に教えてもらうか、だな」

今回で二年生になってからテストは三回になると思うのだが、そこから二回目の定期テストの時に涙から教えてもらった気がする。確か定期テストと模試テストと課題テストがある。
定期テストはその名の通り定期的に受けるテストなのだが、模試テストは難易度が高めのテスト内容、つまりは大学入試などに向けたテストみたいだ。課題テストは課題として出されたものを総まとめしたものから作り出されるテストで、このテストは定期同様に成績にバッチリ入ることになる。
夏中間辺りで、単位テストと呼ばれる特殊なテストがあるのだが、それは自由に受けることが出来、一学期に不十分だった成績を補う為の救済措置用のテストのようなものだ。大体の生徒はこれを受けて成績の挽回を図るわけだが……そういえば去年、俺も受けたことがあったはず。何とかそれで免れたんだったか。
そして、今回はその中でも定期テストの中間、期末と分かれてある内の期末テストが待っているということになる。

涙に教えてもらった時、スパルタはスパルタだったが、とてもすんなりと覚えることが出来た。つまり、教え方が上手かったように記憶している。
雪ノ木辺りに頼もうとしたけれど、その時雪ノ木も成績が芳しくなかったようで、猛勉強を励んでいた。邪魔すると悪かったので、頼まなかったんだっけ。
五十嵐は五十嵐で、確かに分かりやすいといったら分かりやすいんだが……何というか、とても淡白な教え方だったような気がする。端的に、ただこれが正解だと言わんばかりの正確な答えしかハッキリと簡単にしか言わない。具体的に、内容が濃くないというのだろうか。教えてもらえれば多分分かりやすく説明出来ると思うのだが、五十嵐から具体的に教えてもらおうという考えは何となく拒否された。

「……北条は?」

そういえば、北条に教えてもらったという記憶がない。そもそもあいつ、賢いのかどうかさえも分からない。ほとんどゲームやらで一日を過ごしている奴なので、頭が悪そうな気配はしたりするんだが……。

「傘も返さないといけないしな……」

昨日に借りた傘を返さなくてはいけないという思いもあり、どことなく北条の元へと訪ねてみたくなったのであった。




北条の住んでいる所は、確か涙の家からさほど遠くない場所だったと思う。橋を超えるのは涙の家に行くのと変わらないルートだったはずで、北条の家は涙の家からまだ離れている場所にあったはずだった。その為か、北条は多分自転車か何か乗り物を使って登校しているはずだった。でないと距離が距離で、遠すぎる。
とはいっても、このまま北条の家に行って北条がいるかどうかも分からないし、それにこの傘一本如きでせっかくの休みを邪魔してはいけないんじゃないかという思いが交差して何となく行こうと思わなくなる。勉強云々はともかくとして、傘だけはせめて返してから帰ろうと思った俺は、自転車へと跨り、ゆっくりとペダルを漕ぎ始めた。
橋まで行くのにさほどかからず、案外スムーズに涙の住む方にある大巫女川辺りまで来た。昨日の雨の影響か、少々量が高くなっているような気もしたが、相変わらずの眺めのいい川だった。
河川敷には、少し曇りがちの空の下、野球をしている小学生辺りの男の子達から声があがっていた。
北条の家はどこそこにある、という風に情報として聞いたぐらいで、実際に見たり入ったりしたことは無い。だから無謀とも思える北条の家訪問なのだが、散歩がてらだと思えば気が楽だった。
橋の上からギリギリにして見えるあの願いの叶うと言い伝えのある桜の木はもう桜色を失っていることが橋の上からでも分かったぐらい、この町の景色は一望できたりもした。
確か、とある神社の近くにあると聞いたことがある。家自体は館のように大きめだというから、見つけやすいとは思っていた。

「……案外見つからないもんだな」

橋の上を渡り切り、大巫女神社と呼ばれる川から由来したらしい神社の周辺を訪れたのだが、全く館らしいものはない。
本当に此処の辺りに北条が住んでいるのかということも、もはや疑問となってくる。もしかしたら、正反対の方向とかいうんじゃないだろうな、とか思いながらため息が一つ漏れていく。
そこそこに探し回ったが、見つからないということで一旦大巫女神社の鳥居前で一息吐いた。
別に、傘一つ如きでどうして此処まで走り回らなくてはならないのだろう、という思いがふつふつと次第に込み上げてきた。別に傘が無くて困っているわけでもあるまいし、また学校のある来週に渡せばいいじゃなか、と思えてきた。
だんだんと諦めがつき始め、次第には帰ろうと思うように心変わりしてしまっていた。
自転車を停めて、近くにあった自動販売機でスポーツドリンクを購入し、下から手に取ろうとしたその時だった。

「あの……」

ふと、誰かから声をかけられた気がした。周りを見渡すようにし、その声がしたと思えた方へと振り向くと、そこには巫女服姿の少女が箒を持って突っ立っていた。