複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.109 )
日時: 2012/05/03 22:20
名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)

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「————もォいいよ。 高樹クン……
                        ゴメンね、松浦くん……」


 体を起こし顔を上げた徳永さんは、わずかに残っているプライドをかき集めた様な笑顔を僕に見せて走って教室へ戻っていった。
「ありがとう」
 真っ赤に腫れ上がった彼女の瞳が、まるで僕にそう言っているかの様に感じた。
 いつもつま先立ちで背伸びをしていた彼女が、“飾り”を全て外した笑顔は、思った通りやっぱり可愛かった。
 “こんな男よりも、もっとあなたに相応しい人は必ずいるから……大丈夫だよ。”
 徳永さんの背中に視線で送りながら、僕は松浦鷹史のシャツをつかんだ手を離し、いかりで乱れた呼吸を整えた。


「……ねぇ、松浦くん、 さっき徳永さんに言ってた“好きな女の子”って…… だれ?」
 松浦鷹史は廊下に転がっている小さな空の段ボール箱を足でポーンと蹴飛ばして不敵に笑い出した。
「プッ、 ククククッ……。  ————何? なんでソレ、友達でも何でもねぇおまえなんかに教えなきゃあ、いけねーの?」
 強がっているつもりだろうけれど、彼の言葉の中にはっきりと焦りが見える。
 動揺している表情を僕に見透かれてしまうのが嫌だったのだろう。 松浦鷹史は急に僕から視線を外し、再び窓の外を見た。
「関係ねーだろ、  ……ンなの」
 彼は何とかごまかして僕の質問から逃げようとしている。
 “アレ”は徳永さんの交際の申し込みを断るために作った嘘なんかではない。 僕は気付いていた。 彼と初めて言葉を交わした時から、いや違う、顔を見た瞬間に直感で。 “同じ女の子に想いを寄せている”んだってね……
「——じゃあな。 俺、もう戻るわ」


「教えて」


 僕は松浦鷹史の前に回りこんで、左手を横に伸ばして行く手をはばみ、逃げられるのを止めようとしたが、
「どけ。」
    彼の手の平で胸を押し返された。
「……関係あるでしょ」
               「じゃあな。」
                    「ちゃんと聞いて」
                             「………。」


 ————もっと崩してやる…… そのポーカー・フェイスとやらを…… 今からあんたに見せるロイヤル・ストレート・フラッシュでね。


「——ねぇ、その女の子ってさ…… 塾が同じ子なの?
                                  学校が同じ子なの?
                                           ————それとも……塾も学校も同じ子かな?」