複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.123 )
日時: 2012/05/04 11:01
名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)

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「おう、おう、こんなに赤くなっちゃって……可哀そうに。  ……ごめんな。 痛かっただろ……?」
 自分でやったくせに何を言っているのかガリバーは、釣り上がっていた目尻を急に下げ、ゴツゴツした手であたしのほっぺたを撫でながら何度も謝ってくる。
 まあ、こんなに謝ってくれている事だし、このまますぐにこのバスから出て行ってくれるのならば、仕方ないけれどさっきの事は許してあげようか……と思ったら、
「おまえも謝れ……」
 今度はいきなりあたしの髪をわしづかみにして命令してきた。
(なっ! なんであたしがっ——!)
 ————納得いかない。 いくらこの人が“あたしのことを好き”だからとはいっても、一方的にこんなメラメラと嫉妬に満ちた攻撃的な愛情をぶつけてくるなんて酷過ぎる。 第一、この人とあたしは恋人同士でもなんでもないんだから————!
 あたしは震えながら歯を食いしばり、ガリバーを睨んだ。 
 会ったばかりでどんな人かはよく分からないけれど彼は……
                                     ——かなりアブナイ人だという事だけは分かった。


「……蒲池いねぇな」


「!」
 松浦くんがバスの中に入ってきた。 しかし、あたしがこんなに怖い思いをしているのに、チラッと一瞬だけあたし達の方を見て“何も見なかった”様に素通りし、一番後ろの席に座ってしまった。
 大男ガリバーに髪をつかまれて、睨みをきかせた表情(かお)で上からおもいっきり見下ろされているこの状態を、頭のいい松浦くんならなおさらあたしの身に何が起こっているのか一目見ただけで察してくれるはず。 いくら冷酷な彼でも、知っている女の子がこんなにピンチな状況に陥っているのだから、もしかしたら助けてくれるんじゃないか、と僅かな期待を持ったあたしがバカだった。
 やっぱり松浦くんなんて、あてにならない。
(あんなやつなんかに期待なんてするもんか……。
                               もう いい…… ひとりで頑張るもん……)


「さっ、触らないでよ、もうっ! あ、あたし、あなたのことなんて大っキライッ!!  ……なんだからねっ!」
(こ……これでどうだ……)
 こういう自分勝手なタイプの人には特に“今”、ハッキリ、キッパリと言っておかないと、後にヒドい目に遭うだろう。 内心ビクビクしながらタンカを切った。
「あ? 何言ってんだ? この女……」
 あたしの髪から手を離し、ガリバーは目を丸くして驚いている。
 手強いと思っていた彼が……信じられないけれど、これは予想以上に効き目があったようだ。 とにかく勇気を出して言ってみて良かっ————
「ぶっ! くくくっ……  あはははは……!」
 ————しかし、後ろの席で何故か松浦くんが大爆笑をしている。
(え? なに? ……どうしたの?)
 あたしの頭のなかが“?”でいっぱいになった。
「大嫌い」と言った言葉がよっぽど応えたのか、さっきよりも格段にレベルを上げて進化した怪獣・ガリバーは再びあたしを睨んできた。


「ビッ、 ビリヤードッ!!
       あたしと高樹くんは一緒にビリヤードをした関係ッ! ただそれだけ!!
                                                      ……なのッ!」


「はぁっ……
       はぁっ……
             はぁ……
                      ごくん。」
(よし、言った……。  ————ちゃんと教えたんだから、もう帰ってよね、ガリバーめ……)
 あたしよりも一年先輩で、しかもこんな大きな図体をした、読めない……っていうより読みたくもないアブナイ思考回路の男の人と対等で向かい合うなんてとても敵わない。 悔しいけれど、ここは下手に出るしかないと思った。


「……フーン。 ……ビリヤードとは、ずいぶんと遠まわしに言ったもんだな、女……」
 これでもういい加減諦めて帰ってくれるかと思ったけれど————甘かった。 ガリバーは隣の席にドカッと座り、再び眉間にシワを寄せながらあたしの腕を凄い力でつかんできた。
 車体と一緒にあたしの身体も恐怖で揺れる————
「——痛いッ!! いや…… やめて……」
 嫌がれば嫌がるほど喜ばせてしまうのか……。 必死で抵抗するあたしの声を聞きながら笑顔で頷くガリバー。
 あたしはシートの上から顔を出し、松浦くんに向けて視線を送った。
(おねがい……! たすけて松浦くん——!)
 松浦くんは携帯電話をいじっていて、全くあたしを見てくれない。


「棒で……玉を突いて……穴に入れた……関係、か。
                      こんなガキみたいな顔してるくせに……たいしたもんだな……
                                                             ……よくヤった。」
 ガリバーはつかんでいた腕を離し、肩に回して、今度はあたしのはいているショートパンツのボタンを外した。
(ひぃっ——!)
 あたしはもう一度シートの上から顔を出して松浦くんを見た。
 松浦くんはまだ携帯電話をいじっている。
「残念だな……。 あの男はおまえを助けない……」
 ガリバーはいやらしくニヤニヤしながらショートパンツのファスナーを下げた。
 あたしの顔を近距離で覗き込んでくる彼の荒々しい鼻息が顔にかかって気持ち悪い……。 松浦くんの冷たいミントの息よりももっと————


「——おい待て。  このゴリラブッチョ……」


「!」
 頭の上から降り注ぐミントの香り————
 シートの上から松浦くんが見下ろしている。


「ハン、なに勘違いしちゃってんの?
         おまえの言う、こいつと“ビリヤードの関係”の相手っつーのは……俺なんだぜ。
                                                       ————そーだよなぁ、なみこ。」