複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.141 )
- 日時: 2012/05/04 22:47
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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☆ ★ ☆
「はい、着きましたよ」
あたしの家の前でバスは止まった。 重たい気持ちのままで座席から腰を上げると、
「わたしも玄関まで一緒に行きます」
きっと遅れた事のお詫びをするためだろう。 たぶんお母さんはあたしの勉強の事だけしか心配していないだろうから、別にそこまでしなくたってもいいのに……と思うけれど、先生は車のハザードランプを点けて運転席から降りた。 そして外から回り、スライドドアを開け、あたしの事を待ってくれている。
日曜日の“臨時家庭教師(?)”の話を断ってから、結局、松浦くんとは一言も話をしなかった。
断った理由は聞かれなかったけれど、もし聞かれたとしたら都合のいい嘘をついてごまかしていたかもしれなかった。 彼に“は”高樹くんとのデートの事は話したくなかった。 なんとなく……言わない方がいいのかと思った。
その日が日曜日じゃなかったとしたら、きっとお願いをしていただろう。 (6、70点アップだったし。)
本当は————松浦くんの優しさを受けとめてあげたかった。
「………。」
あたしは、せっかくの松浦くんの気持ちを踏みにじっちゃったんだ————
バスから降りたはいいものの、そのまま帰る気持ちになれなくて立ち止まっていた。
先生は、どうしたらいいのかと困った顔をして、おでこに手を当ててオロオロしている。
「はやく帰れ! 先生待たしてんじゃねぇ、バカ!!」
後ろから来た松浦くんに背中を押され、せかされた。
彼にこんな扱いをされるのはいつもの事で慣れているはず。 ……なのに、さっきの優しい言葉をくれた彼が“本当の松浦くん”だと信じたい————。
松浦くんはあたしを睨み、舌打ちをして、自分の家に向かって歩いて行った。
「おやすみ……なさい……」
あたしは小さく震えた声で言った。
(……あれ?)
松浦くんは足を止めてふり向いた。 ……そして、なぜかまたこっちに戻ってくる。
(どうしたんだろ…… あれ?)
声だけではない…… あたしの体も一緒に震えている————
気が付くと、あたしの目からポロポロと涙がこぼれていた。
今までは、松浦くんにどれだけヒドい事を言われても絶対泣かない、って心に決めていたのに……どうしてだろう…… 彼の優しさを見てしまったからなのだろうか。
こんな顔、見られたくなかったのに……
あたしは両手で顔を覆って隠した。
「——チッ! 何やってんだよ……。 本当めんどくせぇ女だな!」
今までとは違う……まるでこわれものを扱うかの様に優しく————松浦くんに抱きしめられた。
彼に抱きしめられたのに何故なのか今回は初めて鳥肌が立たなかった。
あたし達の姿をチラチラと見ながら、先生はさっきよりも困った顔をして、赤く染まったおでこに手を当ててオロオロしている。
「————どうせ腹でもへったんだろ。 はやく家帰ってメシ食って寝ろ。
……おやすみ。」