複雑・ファジー小説

忍び寄る疫病神 ( No.15 )
日時: 2012/10/12 22:15
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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《ここからしばらく松浦鷹史くんが主人公になります》


「ねぇ、鷹史。この前話したお隣のお嬢さんのなみちゃんが、あなたの行ってる塾に入るって話だけど……。それがね、今さっき聞いて————今日からなんですって」
「んー」(なんだ、そんな事か)
 俺はリビングのソファーに座ってパソコンのキーボードを打ちながら答えた。
 キッチンとリビングを心配そうにうろうろと歩いていた母さんが、ため息をつきながら俺の隣に座ってきた。
 そしてテーブルの上に置かれた湯のみに入った熱い緑茶を少しずつすすっては何度も俺の顔をチラチラと見ながら、さらにわざとらしく俺に聞こえる様に大きな声で“ひとりごと(?)”を呟いた。
「なみちゃん……初めてで、きっと心細いでしょうね。おとなしい子だから、いじめられたりしないかしら? 
 ————心配だわ……」
「んー」(知るか)
 悪いけど、その“件”に関してはあまり……いや! 絶対に関わりたくはない。俺は“聞いていないフリ”をして、キーボードを打ち続けた。
「鷹史、あなた同じ学校なんだから、なみちゃんの事優しく守ってあげてね」
「…………」
 俺はキーボードを打つ手を止めた。
「ねえったら、ちょっと! 聞いてるの? 鷹史っ!」
(うるっせーな……)
 力を込めてドンッ! と湯のみをテーブルに置いた母さんに向けて、『空気読め』と心の中で返し、彼女を睨んだ。


「……母さん。この前話してた石川きよしのコンサートチケット2枚……結構いい席取れたよ。ほら」


「えっ? あらホント。武藤さんに連絡しなくっちゃ。きっと喜ぶわぁ。……ありがとね、鷹史」
 コロッと機嫌を戻した母さんは嬉しそうに携帯電話を手に持ち……おそらく“あいつ”の母さんと話をしている。
(優しく守ってあげろ? ————あいつを?)
 隣で電話をしている母さんの声のボリュームが段々と大きくなる。
 ゲンキンなババアだぜ、全く……。
 俺は楽しそうに話し込んでいる彼女の顔を見て鼻で笑い、リビングを出た。


(俺がいっぱい、いじめてやるよ……)

忍び寄る疫病神 ( No.16 )
日時: 2012/10/08 09:38
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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     ☆     ★     ☆


 2階に上がり、自分の部屋のベランダの窓の外を見ながら、俺はデカいため息をついた。
 母さん同士で仲良くするのは勝手にしてもらって構わないが、俺まで巻きこむのはいいかげんやめてほしい。
 もしかしたら、この調子で勝手に親の都合で将来ムリヤリあいつとケッコンなんてさせられるハメになるんじゃないか?
(ハッ! 冗談じゃねぇ!)
 ————それだけは死んでもゴメンだ。


 目の前に武藤の部屋がよく見える。
 相変わらず勉強机の上には、1日であんな量読めるか、というくらいの数の漫画本がどっさりと積み上げられている。ウッドチェストの上に、女らしく花の植木鉢なんかを飾っているつもりだろうが、元が何の花なのか、どんな色の花だったのか、分からないくらい無惨に“ドライフラワー化”している。————見れば見るほど思わず“バカ代表”の称号を与えたくなるようなツッコミどころ満載の部屋だ。


 たった今、学校から帰ってきたばかりなのだろう。
 ドアを開けて部屋に入ってきたセーラー服姿の彼女。こいつは普段からあちこちに恥をさらけ出し過ぎて、羞恥心というものを失くしてしまったに違いない。隣の家に同級生の男が住んでいるって分かっていながら、見られているとも気付かずに、いきなり服を次々と脱ぎ出し、堂々と着がえ出した。
(カーテンくらいしろよ……)
 案の上、胸も尻もクビレもない幼児体型をしていやがる。
 それにあの上下薄ピンク色の下着はよっぽどお気に入りの様でか、それともただ単にタンスを開けて一番上にあったものを取るだけなのか、2日に1回の割合で着けている様な気がする。女はこの年頃になると下着にもこだわる位オシャレに目覚めるものだと思っていたが。
 ……うおっと。今度は下着姿で背伸びをしていやがる。
(みっともねぇ体……)
 こんな女を好きになるやつなんて絶対いない、と俺は思った。

忍び寄る疫病神 ( No.17 )
日時: 2012/10/08 09:40
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

17>

 平和な日々に“ひび”が入る。
 “こいつ”のせいで、何かいやな事が起こる予感がする————


     ☆     ★     ☆


 バスの中、俺の隣の席で石の様に固まっている武藤がいる。
 俺は、彼女と今日から同じ塾に通う事になる。
 頼むから母さん達には、この話を他の奴らには漏らさないで欲しい。
 こんな奴なんかとヘンな噂になるのは、ゴメンだからな……。


 ————塾に着いた。
 多分、同じ学校に通っていて、住んでいる家が隣同士だから“仲がいい”のかと思われたのだろう。先生に“武藤の面倒をみてやれ”みたいな事を頼まれたけれども、
(——フン! 自分で何とかしやがれ)
 俺は武藤の事は構わずバスを降りて、早歩きで逃げ出した。


 教室のドアを開けて自分のクラスの教室に入り、席についた。
「よォ、鷹史」
「はぁ〜い、鷹っち」
「来たな、鷹殿」
 わざわざ自分から動いたりなんかしなくても、周りの奴等の気持ちが自然に集まってくる。こんな事を自分で言うのもなんだが、俺には人を惹きつけるオーラが出ているのかもしれない。
 違う学校なのに何かと親しくしてくれる彼らに、俺は軽く手を上げ笑顔で答えた。


 今頃Bクラスの教室で武藤はどうしているだろう。 
 周りにいるのは違う学校の……知らない人だらけ。
 あいつの事だからきっと、教室のドアの前で立ち止まって泣きそうな顔してるだろうな……。
 ごめんな。“優しく守って”あげられなくて。……ククッ。


 まァ、とにかく武藤と違うクラスで良かった……。

忍び寄る疫病神 ( No.18 )
日時: 2012/10/08 09:41
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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 ————と、なんだよ全く。今日武藤がこの塾に通う様になってから、気が付くと無意識で彼女の事ばかり考えてる気がする。
 極力、俺の視界と脳内に連れてきたくはない女なのに。
 いち早く強力な殺虫剤でも撒いて追い出さなくては気分が悪くなる。
 俺はカバンの中に手を入れて、講習が始まる時間までの暇潰し、にと家からちゃっかり持ってきていた小説本を出して読み始めた。
(今、スゴくイイとこなんだよな……)
 断じてエッチな小説ではない。
 ただ……恋愛小説なので、誰にも知られたくない。


 他の奴等にタイトルを見られない様にしっかりとカバーを付けて隠した本を読んでいると、俺の大嫌いなくさい香水の臭いが近付いてきた。
「たーかし、クンっ」
(チッ! こいつか……)
 同じクラスの彼女の名は、徳永静香。
 俺の前でだけ人格を変えられる、という得意技を持っている。
「なに、よんでルのぉ?」
 さらに彼女は声のトーンを普段よりも一オクターブ上げた見事な作り声で話す事ができる、という高度な裏技まで持ち合わせている。笛を吹いたら壺の中から出てくる蛇の様に体をくねらせながら、徳永さんは俺の手元を覗き込んできた。
「本……」
 こんな女と話したくないのに……。
 香水の臭いが鼻にまとわりついてむせ込みそうだ。こいつの顔面にも殺虫剤をぶっ掛けて追い返してやりたい。
 ジャマだな、と思いながら本を閉じ、『さっさとどっかへ行きやがれ』と念じたが、今度は俺の顔に顔を近付けてきやがった。
「ねェ……今日、鷹史クンと一緒にバスに乗ってきたコって、ナニ?」
 彼女はいきなりイヤな事を聞いてきやがった。
 武藤の事は話したくない。
「アハハ……」
 俺は笑ってごまかそうとしたけれど————ダメだった。
「あのコ、鷹史クンと同じ中学で家が隣同士なんだって、さっき蒲池(かばいけ)センセイに聞いて……。ねェ、どんな関係なの? 幼馴染み? 
 ————もしかしてコイビト……なんてコト、ナイよね?」
「——ッ!」
(くそッ! 蒲池のやつ、余計な事言いやがって————!!)
 ムンムンとくさい香水の臭いが、さらに俺をムカつかせる。
 俺は右手の拳で机の上をドン! と叩いた。
 教室の中が俺の怒りのオーラで一瞬シーンと静まりかえる。
(おっと、コレはマズったな……)
「フッ」と小さく笑って椅子にのけ反り返った俺は、


「関係ない……」
 と呟いた。
 “武藤と俺は何の関係も無い”
 “徳永さんには関係の無い話”
 両方の意味を込めて————


「よかったァー。コイビトじゃなかったのネー。じゃあ静香、まだ脈アリなんだねェー」
 スキップしながら自分の席に去ってゆく彼女に向けて、俺は心の中で“フェイク・ポーズ”をおみまいしてやった。

もの好き男の宣戦布告!? ( No.19 )
日時: 2012/10/12 22:18
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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     ☆     ★     ☆


 講習が終わり、俺は教室のドアを開けて廊下に出た。


 Bクラスの教室の前を通ると、武藤のバカ顔が頭に浮かんだ。
 そういえば……この塾は、他の所に比べるとレベルが高かったんだ。
 学校のレベルにさえ全くついていけてないあいつが、どう考えてもここで続けていけるわけがねぇんだ。
 一体あいつの母さんは何を考えてんのか分かんねぇケド、あんなのを塾なんかに通わせるなんて、はっきり言って金をドブに捨ててる様なものだ。ああいう、“勉強の仕方から分かっていない”様な奴には、せめて家庭教師の先生を頼むとかにしとかねぇと。
 確かに、あんなにヒドすぎる成績じゃあ、親が心配する気持ちがイタいほど解るけれども、イヤイヤ勉強なんてさせたって頭に入るわけがない。
 好きなものに熱中する意欲がねぇと、力を発揮できねぇから。まじで。
 親の心子知らず……なんて昔の人はよく言ったものだな。
 俺も俺で母さんに『なみちゃんと仲良くしてあげなさい』とか、しょっちゅううるさく言われてるから。
 ————死んでも嫌だが。
 そうやってやりたくない事をムリヤリ押しつけられて、あいつもまぁ、可哀そうっちゃあ、可哀そうだ————
(……って! か、かわいそう!? ————はあっ!? なに考えてんだ、俺っ!!)
 塾の外に出た俺は、月の光を浴びながら長く深呼吸をした。
(フン! い、いい気味だぜ!)


 駐車場の脇の自転車置き場から、俺に向かって大きく手を振っている徳永さんがいる。
 いらない愛情をムリヤリ押しつけられている俺の気持ちと武藤の気持ちがなんとなく似ている気がして、「ふっ」と思わず笑ってしまった。
 さて……と、あいつの疲れきって青ざめた顔をバスの中でじっくり見てやるかな……。
 わざと徳永さんに“気付かないフリ”をして、俺はバスへと向かって歩いた。

もの好き男の宣戦布告!? ( No.20 )
日時: 2012/10/08 09:49
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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「松浦くん」
 バスに乗ろうとしたら、背後から誰かに声を掛けられた。
 足を止め、振り返ると、上品な顔をした男が近付いてくる。
(ああ、こいつは確か……)
「高樹ー、早く来いよー」
 そうだ、高樹だ。見覚えがある。今、この男をを呼んだ健(俺と同じクラスの結構仲のいい友達)と、よくつるんでいるBクラスの奴だ。 
 クラスが違うから話をした事はまだ一度もないが————
「いーよ。健、先行ってて」
 髪の毛を指でかき上げてニコッと紳士的な笑みを浮かべた彼はゆっくりと話し出した。
「どうも。僕、2年生Bクラスの高樹純平です」
 律儀にまず自分の名を名乗り、ニコリと微笑む“高樹”とやらいう男。誰にでも好かれるような甘い声、そして優しい瞳をしている男だが、なんとなく感じる。まるで俺に対して挑発をしているかの様に————
 どうも、うさん臭い。
 健の友達だから、あまり悪くは言いたくないのだが————
(こいつが俺にいったい何の用なんだ……)
 ジャケットのポケットから出した右手を腰にあてて目を細めると、高樹……というやつは俺の顔色を探りながら聞いてきた。


「今日、君と一緒にバスに乗ってきた女の子の事、聞かせてくれない?」

もの好き男の宣戦布告!? ( No.21 )
日時: 2012/10/12 22:22
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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     ☆     ★     ☆


 帰りのバスで、また俺はわざと武藤の隣の席に座ってやった。
(さて……と、今度はどんな攻撃カマしてやろうか……)
 ワクワクする気持ちが抑えきれず、思わず笑みがこぼれてしまう。
 思った通り、隣で武藤はとても疲れた様子で口を半開きにして窓の外を見ている。
「綺麗な月だなァ、武藤」
「…………」
 おそらくいきなり俺にこんな事を言われて驚いているのだろう、彼女は何も返してこない。
 コレは手応えのある反応だ。この調子で次の俺の発する言葉に毒を盛る。
「このバスから、おまえと一緒にこの月を何回見れるんだろうな。もしかしたら……今日で最後、だったりしてな! ハハッ!」
(さあ、どんな反応くれるかな?)
「…………」
 彼女はまたもや何も返してこない。
「!」
 もしかしたらこいつは生意気に俺の事無視しやがる気なのか!! ————クッ!
 予想外の彼女の反応に迂闊にもカッときた俺。
(上等じゃねーか、コイツ……まさかそうきやがるとはなあ!!)
 首を伸ばして俺は窓の外を見ている彼女の顔を覗き込んだ。
「——チッ!」
 舌打ちをして俺は鼻でため息をついた。
 彼女は見事に寝ていやがったんだ。俺と同い年とはとても思えない、幼少時代からまるっきり成長していないような顔をして。
 楽しい夢でも見ているのだろうか。幸せそうに笑みを浮かべている彼女のくちびるを思いっ切りつまんで現実に引っぱり出してやりたくなる。無性に————


「可愛いお友達ですね、松浦くん」
 ハンドルを操作しながら俺に話を振ってきやがる蒲池の言葉に『どう見たって“友達”になんか見えねぇだろうが!!』と心の中でツッコミを入れながら武藤の寝顔に視線を流す。
(————たしか高樹、といったな……)
 さっきバスに乗る時に、こいつの名前とか俺との関係とか、色々聞いてきた男の事を思い出した。


 ゴツッ!
 いきなり俺の傍ですごい音がした。
 武藤が寝ぼけて窓に思いっ切り顔をぶつけたようだ。
「プッ!」(……バーカ)
 ————なんて笑ってる場合なんかじゃない。その後、彼女は俺の二の腕に寄り掛かってきた。
 小さな白い額に、ほんのりと赤い跡が付いている。
「く、来んなよ、バーカ」
 俺はひじを使って彼女を押し返した。
 すると一昔前のコントの様に、再び寄り掛かってきやがった。
「はーっ! ……クソッ!」
 俺は諦めて腕を組み、後ろにのけ反った。


 俺の腕を図々しくも枕にして鼻の音をピーピーさせて寝ている武藤を見ながら思った。
(こんな奴のどこがいいんだ……)
 高樹の気持ちが分からない。
 待てよ、もしかしたら————
 高樹の奴は、誰でもいいからただ単に女とヤリたいだけなんじゃないか?
 こいつバカだから、なんとか上手いこと騙して、思う存分弄んで終いにはポイするって魂胆か……。
 考えてみれば、あの紳士的な態度といい、純粋“そうに”見える顔つきといい、あんなのに限って意外に“そーゆーやつ”が多いんだ。
(————ん? だがしかし、なんでよりにもよって、こんな女をターゲットにしたんだ? もっとましな奴がいたんじゃねぇのか?)
 ますます彼の気持ちが分からなくなった。
 俺だったら金をしこたま積まれて土下座で頼まれたって、こんな女はお断りだぜ。

もの好き男の宣戦布告!? ( No.22 )
日時: 2012/10/08 09:55
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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(ん? なんだ? 冷てぇな……)
 俺の手の甲に何か変なものが落ちた。
 ふと手元に目をやると、半開きの武藤の口からよだれが滴り落ちている。
「!」
(こっ! こいつッ————!!)
 慌てた俺はポケットの中に入っているハンカチを出そうと思って右腕を少し動かした。
 ズルリ。
 そのせいで武藤の頭が俺の腕から滑り落ち、今度は膝の上にやってきた。
(おい……マジかよ……)


 とにかく武藤のよだれをどうにかして止めなければ、と自分の手よりも先に彼女の口をハンカチで拭いた。
 その時、俺の指がかすかに彼女のくちびるに触れた。小さくてプルンとした……柔らかいくちびるだった。
 彼女の着ている黄緑色のVネックのカットソーの脇から、右の鎖骨がちらりと覗いている。シャワーを浴びたらお湯が溜まりそうな深く窪んだ鎖骨が————
「ゴクリ」
 俺は無意識で生つばを飲み込んでいた。

もの好き男の宣戦布告!? ( No.23 )
日時: 2012/10/12 22:24
名前: ゆかむらさき (ID: ZD9/Y1q1)

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「痛い! ダメッ! そんなコトしないで! 松浦くんッ!」


「!」
 武藤が、いきなり寝言でとんでもない言葉を叫びやがった。
 ————キーッ!
 バスが急ブレーキをかけて止まった。
 何故こうしたのかは自分でも分からないが、俺は反射的に膝の上の彼女を落ちないように手で押さえ、守っていた。————っつーか、よっぽど勉強に疲れたのか、武藤はまだ目を覚まさない。
(いーかげん起きろって……)
 蒲池が、運転席から首を出して心配そうに振り向き、俺たちの事を見ている。
「なッ……! ななな何もしてませんッッ!!」
 俺は(不自然に動揺しながら)必死で訴えた。


 こいつは確かに、はっきりと俺の名前を叫んでいた。
 痛い、ってドコが……? そんなコト、って……どんなコトだ? ————夢の中で俺がおまえに……ナニをシタんだ……?


 塾に行く前に見た武藤の下着姿とさっきの叫び声が、頭の中で合成されて一つの映像になった。
(松浦くんの……エッチ……)
 モンモンと俺の中で勝手にエスカレートしてゆく武藤のエッチな映像————
 俺が今何を考えているのかも知らずに、彼女はまだ俺の膝の上でのん気に寝ている。
 俺は武藤の口をハンカチで押さえながら、ため息をついた。
(なんでこんな奴のために、俺がこんなに……)
 彼女のよだれのせいで俺のズボンは今大変なコトになっている。大変になっているトコロが“股間”じゃなくて良かったが。
 蒲池がバックミラーを俺たちが映る位置に合わせて、さっきから何回もチラチラと見てくる。


「も、もうすぐ着きますよー……」