複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.155 )
日時: 2012/05/06 12:42
名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: dKbIszRw)

81>

(ここは……どこ?
           ……ん? なに時代?)
 物音一つしない静かな夜の中……
 何百年も昔に造られた超豪華な日本風の宮殿の様な建物の中央のお庭に、あたしは何故か一人ポツンといる。
 何ともキレイに手入れの行き届いた広い庭。 足元の小さな木製の掛け橋の下に広がる水の澄んだ池の中には、上品な紅白模様のニシキゴイが何匹か気持ち良さそうに泳いでいる。
(重ぉっ。  ……なにこれ。)
 あたしはまるで雛人形のお姫様にでもなったような何重にも重なった分厚い着物を着ている。
 ずりずりと、ひょっとしたらあたしの体重よりも重たいのかもしれない着物のすそを引きずりながら、“すのこ”でできたようなテラスに上った。
 手すりにつかまってふと上を見上げると、赤い月が妖しい光を放ち、あたしを照らしている。
 ————何か嫌な予感がする。 生温かい風が化け物のうめき声の様なヘンな声をあげて、耳をくすぐる。
 あたしは怖くなって、慌てて近くにある部屋へ飛びこんだ……つもりだったけれど、ふすまを開けたとたん、足で着物のすそを踏ん付けて派手に転んでしまった。
(……痛いぃ)
 八畳くらいの広さの畳の部屋の中に、あたしは大の字の格好で倒れていた。
 顔を上げると、和風アンティークな家具があちこちに置かれており、金の屏風が立っていた。 屏風の奥に豪華な金色の大きな布団が見える。
(いつの間にあたし、こんなにお金持ちのお嬢様になったんだろう……)
 着物が重たくてなかなか立つことができない。 あたしはゆっくりと這いながら布団の上まで移動した。
(やわらかくってふわふわ……  なんだかホントにお姫様になっちゃったみたい……)
 布団の上にほっぺを付けたら眠たくなってきた。 ここでこのまま寝ちゃっても大丈夫……なのかな……
 このおうちにはあたし以外誰もいないのかな————


「——姫ッ!!」


「 !! 」
 ふすまの向こうから誰かの大きな声が聞こえた。 まるで誰かを探して呼んでいるような————
 あたしはとっさに下に敷かれた布団の中に身を隠した……つもりが顔だけしか隠していなかった。
「ふふっ。 それで隠れたつもりなの?  ……でておいで。 ほら、僕だよ。」
 それはどこかで聞いた事のある声だった。 おそるおそる布団から顔を出すと、雛人形のお内裏様の様な格好をした高樹くんがあたしの隣で肘をついて寝そべっていた。
 彼は微笑みながら烏帽子(えぼし)を外して、あたしの手の指を絡ませて握ってきた。


「姫を待たせちゃうなんて、だめだな、僕。
                               ……ごめんね。 もうずっと……一緒だから、ね。」

Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.156 )
日時: 2012/05/06 13:03
名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: dKbIszRw)

82>

(何これ? もしかして、あたし高樹くんと……  “お雛様ごっこ”して……遊んでる……?)
 高樹くんは優しくあたしの手の平にキスをして、仰向けで横になっているあたしの上にまたいで膝をついた。
 ……ワケないじゃん!!
 心の中で一人でボケてツッコんでいる間に、彼は何重にも重なっているあたしの着物を、慣れた手付きで次々と一枚ずつ脱がしていく————
(ちょっと待って! あたし……)
 重い着物を脱がされていく度に、体は少しずつ軽くなっていくけれど、不安な気持ちがどんどんと重たくなっていく。
 浴衣の着付けもできないあたしが、結婚式で花嫁さんが羽織る様なこんな豪華な着物を裸の状態からきちんと元通りに着直す事ができるのだろうか……って、そんな事なんかよりも————
(ううっ……  だって、あたし、まだ……心の準備が……)
 会ったばっかりなのに、いきなりこんな展開になるなんて思ってもみなかった。 
 真上にある高樹くんの顔が怖くて見れない。 あたしは目をつむり、顔を横に向けて布団をつかんで握りしめた。


「りゃあああああ!!」


 ふすまを蹴り倒したような大きな音と同時に、誰かがすごい声で叫びながら部屋に入ってきた。 しかし、屏風に遮られていて入ってきた人の顔が見えない。
 高樹くんはほどいていた腰紐から手を離し、サッと立ち上がった。 そして枕元に置いていた刀を取って“さや”を抜き、あたしの前に立ち、構えた。
「——くっ! やっぱり来たな……
                      ————“あいつ”だ」
 構えた剣先をキラッと光らせ、彼は右手を横に大きく伸ばしてあたしを守りながら呟く。
「……姫。 後ろの扉から……逃げて」
 振り向くと足元の辺りに、しゃがんで入れる位の小さな隠し扉があった。
「——はやく!」
 高樹くんは冷や汗を流しながら、あたしに微笑みかけた。
(でも……ここであたしが逃げたら…… 高樹くんは……  高樹くんも一緒に逃げれるの……?)
 今あたしに見せたのが彼の最期の笑顔にしたくない。 
 いやな予感がする……。 彼は、きっと……あのひとと、戦う————


「姫は、どこだあああ!!」


 屏風を蹴り飛ばし、入ってきた“そのひと”は、あたしたちの前に姿を現した。
 まるで地獄の闇の底から這い上がってきたかの様な深紫色の着物を羽織り、顔に恐い鬼の面を付けている。 そして……右手に不気味に光る、刀————
「ククク……。 隠れてもムダだぜ……」
 面で隠れて顔は見えないけれど……その声はどこかで聞いた事のある男の声だった。
(やっぱりそうだ、このひとは……)


「今ごろノコノコと戻ってきやがったか……
                        この女はな…… もうすでに俺とビリヤードの関係なんだよ!」
                                                        (ビ…… ビリヤードォッ!?)


 鬼の面を付けた怪しい男はいやらしく高笑いをしながら、天井に向けてかかげた刀を思いっきり力を込めて振り下ろした。