複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.165 )
日時: 2012/05/06 17:18
名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: dKbIszRw)

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 舞ちゃんはあたしの降りるバス停よりも、三つ先のバス停で降りるのだと言っていた。
 そこはこの辺りでは一番栄えた街で、ボーリング場や映画館といった遊戯施設がある。 しかし、彼女たちのデートをする場所は、予想外にもあたしはまだ一度も行った事のない……っていうか行こうとも思った事もない最近できたばかりのアウトレット・モールだった。
「最近の小学生って進んでるんだね……」
 驚いたわたしは彼女に「まあね」とスパッと返された。
 大きな瞳をキラキラと輝かせながら話す舞ちゃんの顔は、出だしからつまずいてしまい沈んでいたあたしの心を引き揚げてくれた。


     ☆     ★     ☆


 ブロロロロ……


 塾の近くの大型スーパーマーケットの前のバス停でバスが停まった。
「また逢えたら、デートのお話、聞かせてね」
「お姉さんもね」
 別れ際、今度はあたしが舞ちゃんの頭を撫でて席を立った。
 バスを駆け降りて飛び出し、あたしは全力疾走で塾へと向かった。 とにかくスニーカーを履いてきたこと“だけ”は良かったと思った。
 途中で赤信号に引っ掛かりながら、がむしゃらになって走った。 
 ……もう髪の毛はボッサボサ。 汗だっくだく。 ————こんなセーターなんて着てくるんじゃなかった……


————またもや赤信号。 まるでどこか遠くで誰かがあたしに向けて呪いをかけているかの様に、結局今日出会った信号機は全て赤ばっかりだった。
「なみこちゃん!」


「!」
 交差点の横断歩道。 信号が変わるのを待っているあたしがいる反対側に……
                             満点の笑顔で自転車にまたがって手を振っている……
                                                             ————高樹くんがいた。


「高樹……くん……」
 彼は自転車をガードレールに立て掛けさせ、あたしをまっすぐ見ながら信号が青になるのを待っている。


ピッポッ、 ピッポッ、 ピッポッ……


 信号が青になり、高樹くんは髪の毛とジャケットのすそをなびかせて走ってきた。
 信号機から流れるメロディーとあたしの心臓の音が重なる。
 このあとはきっと……彼の事だから「会いたかった」と優しく頭を撫でてくれるのかと思った。
 横断歩道を渡り、息を切らした彼はあたしの前で足を止めた。
「——どうして遅れたの?」
                  「え?」
                      「なみこちゃんのほうから誘ってきたくせに…… ふふっ。」
 あたしが遅刻たから怒っているのだろうか…… しかし、どうやらそうではないみたい。 だって……なんだかニコニコしている。


「——ねぇ。  ここってさ、塾と比べものにならないくらい……人が多いよね」
「う…… うん」
 たしかにこの交差点は近くに大型スーパーマーケットがあるし、飲食店も多い。 ……それに、なんてったって今日は日曜日だし。
「どーして遅れたのー?」
 あたしの両肩に手を置いて、高樹くんは顔を覗き込んできた。
 あたしの心臓の音が信号機のメロディーよりも早く刻み出した。
「ごめんなさい……。  えっと…… 寝坊、しちゃっ た。」


「……プッ。」
 吹き出して笑った高樹くんに、あたしは優しく抱き締められた。
「僕、今日のデート、すごーく楽しみにしてたのになー……
                       なみこちゃんは 忘れちゃってたのかー。
                                                   ……フーン。」
 横断歩道を渡ろうとする人達が、通りすがりにあたしたちの事をジロジロと見ていく。
「たっ、高樹くんっ、ここは恥ずかしい……っ」
(前にちゃんと言ったのに……)
 あたしは高樹くんの胸を押して腕をほどこうとした。 しかし、抱きしめる手に力をいれた彼に、もっと強く抱き締められた。
 あたしの体温が急上昇している。 もう限界…… おふろに長く浸かり過ぎちゃった時の様に、ふわふわ……って倒れてしまいそう————
「ふふっ。」
 高樹くんは小さく笑ってあたしの耳元で囁いた。


「みんなの見てる前で……
                     恥ずかしいコトしちゃおうかな……」
                                              (……え?)