複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.188 )
日時: 2012/05/12 07:56
名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: dKbIszRw)

キケンなパジャマ・パーティー
————第一夜・難問題 武藤なみこ


2>

 答案用紙に書かれている問題数はさほど多くはない。 しかし問題全てがあいつ……武藤なみこに関わるものだった。


 俺の額から滝の様な汗が流れだす……。
 勉強の苦手な奴等がテストで戸惑う気持ちが身に染みてよく分かる。 
 隣の席で健が頭を掻きながら“数学”の問題と戦っている。
(そういえば最近、健のやつ……  “武藤の話”してたな……)
 武藤の話————確か高樹に武藤の(つまらない)情報を教えて間もない時だった。 講習の始まる時間の前の教室の中で……


「なぁ…… ちょっち俺、小耳にはさんで実はめっちゃ気になっちゃってたりしてんだケドサー、鷹っちィ……って、Bクラスの“武藤なみこチャン”ってコの隣の家に住んでンだろ? ……みずくさいなぁ、そんな子がこの塾に入ってくんのなら教えてくれたっていーのによー。 
 はぁ…… かーいーよなァ……彼女」
「……俺はあんな女が可愛いなんて今までこれっぽっちも思ったことねぇぞ。 ……ってか健、おまえ彼女いんだろが」
「あー、由季ね。 まぁ、由季は由季で可愛いんだけど、うん……彼女とは違うミリョク?……つーの? 色気があるんだよね、なみこチャンには」
(色気……? 武藤に? 何いってんだこいつ……)
 シャープペンのケツを噛んでフタを外し、芯を入れながら話す健の言葉が信じられなかった。
 まぁ、“オンナ好き”の健だしな……と、軽く聞き流していたが、
「ひゃーっ。  なみこチャンのセーラー服姿……一度拝んでみてぇっ」
(こいつ…… まじか……)
 数学の答案用紙の端っこを指でつまんで頬を染めて遠くを見ている健。 塾に入った時や否や、彼とはすぐに打ち解けて仲良くなったのだが、美的感覚……っていうか、趣味・趣向は俺とはどうやら正反対の様だ。 ——今日、今、明らかになった。 笑いさえもでてこねぇ。 コレがリアル“空いた口も塞がらねぇ”って言うヤツか。
 彼の表情を見て、俺は右手に持っていたシャープペンを落とした。 その時、健は両手を合わせて俺にいきなり謝ってきやがった。 どうやら彼は俺が武藤に想いを寄せていて動揺したと思ったらしい。 ……んなワケあるか、ってんだ。 冗談じゃない。
 落としたシャープペンを拾った俺は健の替え芯を一本徴収してやった。
「ああ、 カーテンもしねぇで着がえるしな。 ……毎日あいつの下着姿見せられて、おかげでこっちは迷惑してるぜ」
「ま じ か……  それなら今度隠し撮り……」
                        「……犯罪だぜ、ソレ」


 ————まぁ、そんなやりとりがあったってワケだ。
 健といい、高樹の奴といい……釜斗々中の男共は 女を見る目が絶対にズレている。
 まさに今、俺の答案用紙と健の答案用紙を交換してやりたい気持ちだ。


 ————しかし、どうしたものか。 10分も経過したのに一問も進んでいない。


「どうしましたか? 松浦くん」
 俺の席の傍らで蒲池がニヤニヤしながら立ち、答案用紙を覗いている。
「アッ……ハハハハ……」 (このハゲ!)
 心の中で彼を罵り、俺は問題と向かい合った。


(適当でいいから埋めつくしてやる……
                       ————フン、こんなテストの再試験を受けるのだけは 死んでも嫌だからな!)