複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック【あのこにメッセージ受けつけ中】 ( No.225 )
日時: 2012/05/12 22:45
名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: dKbIszRw)

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「もうすぐ着きますよー」
 彼は再び“I love you“を、今度は歌詞を口ずさんで歌い出した。
 信じられない……。 こんなのが塾の先生をやってていいのか…… 俺は彼に対して疑問を……いや、疑問というよりもいかりを抱いた。
 もう“たいくらい”の事はどうでもよくなったのか、以前の様に納得いくまでしつこく聞いてくる事はしないで、俺の隣で武藤はおとなしく窓の外を見ている。
今 彼女は窓の外を見ながら、一体何を思っているのだろう……
 今夜の晩メシのことを考えているのか。
 近々学校で行われる模試のことを考えているのか。
 それとも……高樹のことを考えているのか……
 嫉妬。 欲望。 ————愛情(?)
 フロントガラスから街灯の光を受け、広いおでこで反射させながら甘い声で歌うマルハゲ。
 彼のラブソングをバックミュージックにして俺の中の三つの感情が昂ってゆく……
(せめて……ほんの少しでもいいから俺のこと……)


「はい、着きました」
 バスは俺たちの家のそばで止まった。
「遅くなってしまい、すみませんでした。 気をつけて帰ってくださいね。 さようなら」
 マルハゲは運転席から顔を出し、俺たちの方を見て微笑んでいる。
 こいつは俺の気持ちを知っている。 こいつだけじゃない…… あいつだって……
 俺の気持ちを一番知って欲しい人に気付いてもらえなくて……しかも嫌われちまっているときている。
 なんて不器用なんだ俺は————
(……クソッ!)
 本当はやつのおでこに向かってつばを吐き飛ばし、ズラかりたい気持ちだったけれど、
「……チッ!」
 舌打ちだけで我慢して、俺は武藤の腕をつかみ、マルハゲを睨み付けてバスを降りた。
 バスは俺たちを降ろして去っていった。
 ————シンと静まりかえった俺たちの家の前…… 俺の手の中には武藤の細い白い腕…… 


「松浦くん…… 手、離してくれなきゃ……おうち帰れない……」
 腕時計に目をやると、すでに時間は21時30分を回っていた。
 これでも一応女だし、彼女の母さんはいつもより帰りの遅い娘の事を心配して待っているに違いない。
 俺は何も言わずに武藤の腕を離した。
 離したくない……。 このまま彼女を何処かへさらって、俺の気持ちに気付いてもらえるまでキスしたい……
 俺は結局、何も言わずに彼女に背中を見せ、左手を軽く挙げ自分の家に向かって歩き出した。
「おやすみなさい……松浦くん……」
 小さな声で挨拶をして武藤も家に戻っていく。
                  ……頑張って押しころしていたつもりだった気持ちが……止められない————


「————おい、待て、 なみこ」
                      「えっ?」
武藤を呼び止め、俺は再び後ろから彼女の腕をつかんだ。
「いいか、 よく聞け……」
 彼女は早く帰りたそうな顔をして俺の話を聞いている。
「メシ食って、フロ入っても……今夜は寝るんじゃねーぞ……。
                         ベランダの窓の鍵を開けておけ……
                                       もし寝やがったら…… 承知しねぇからな……」
 彼女の腕を引き寄せ、俺は彼女の耳元で囁いた。


                          「俺の好きな“たいくらい”……おしえてやる……」


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たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
               “裏ストーリー”キケンなパジャマ・パーティー
                                            《おわり》


————次回から本編が復活します。
                 おたのしみに♪