複雑・ファジー小説

Re: たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜【本編・復活!】 ( No.241 )
日時: 2012/05/16 11:57
名前: ゆかむらさき ◆gZKBI46muE (ID: dKbIszRw)

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『あんたバカねぇ。 “男の部屋に入る”って行為はどーゆー意味だか分かってないでしょ!』


 コレは昨夜寝る前にテレビで見た番組“DAI・TAN・DX(ダイ・タン・デラックス)”。
 大きな体でブラウン管をガッツリ占領していたのは、最近巷で人気急上昇中のぽっちゃりオカマコメンテーター“ユカコ・デラックス”。 彼(女?)は相変わらず独自の強烈な毒舌トークで新人アイドルの女の子に突っ掛かっていた。
『別にー……?  何にもなかったよー…………』
『フー……ン。 ホントかしらァ、信じらんないワねぇ……とかなんとか言って本当は何かアッたんじゃないのーぉ?』
『まァ、アンタも一応アイドルだし? テレビだからコレ以上追求しないでおくけど?』


『まったく!  ゴキブリじゃあるまいし、女の子がカンタンに男の部屋にホイホイと入るモンじゃないわよ!
                                         ____(ピー)スるまで帰らせてもらえないわよ!!』


 彼(女)“お約束”の“放送禁止ワード”が飛び出して、スタジオ中は大爆笑の嵐。
 ツッコまれたアイドルも可愛らしい顔を崩し、両手を叩いて大はしゃぎしていた。


 現実、あたしは今、男の子の部屋に彼と二人っきりで(しかもベッドの上に)いる。
 ————“大はしゃぎ”どころではない……。 今、あたしの心臓が体の中で大騒ぎしている。 
 よりにもよって“アレ”を今、思い出しちゃうなんて————
                              (ユカコのバカ……)


 あたしの肩に置いた手を離しスッと立ち上がった高樹くんは、スクリーンの方に歩み、プレーヤーにDVDをセットしてリモコンを手に取った。
 軽快なポップミュージックとともに“処女の誘惑”のオープニング映像がスクリーンに映し出された。 どうやらそれはアメリカの学校を舞台にしたスクール・ラブ・コメディー。 チアガールの格好をした金髪のポニーテール・ヘアの女の子が、アメフトのユニフォームを着たマッチョな体格をした男の子に恋をする、という話のようだ。 タイトルからイメージした過激な内容ではない印象を受け、あたしの気が少しだけ安らいだ。
(やだなぁ、もう……。 あたしってば自意識過剰なんだから……
                              高樹くんがいきなりそんなコトしてくるワケ……)


 シャッ。
 あたしの安らいだ心が一瞬で暗くなった。
 高樹くんは部屋のカーテンを……全部、閉めた。
 ベッドのヘッドボードに置かれたアロマキャンドルの炎が照らすほんの僅かの明かりが妖しい雰囲気をかもし出している。
「……寒くない?」
 ベッドの上に座っているあたしの隣に腰を掛けた高樹くんは、優しくあたしの手を握った。
「……は、はいっ!  うん! 大丈夫! ……ですッ」
 あたしの精神力はもうすでに限界に達しているかもしれない。 ただでさえ高樹くんの部屋に二人っきりでいるだけでも緊張なのに————
 彼のかすれた甘い声があたしの全身に響いて……もうどうしたらいいのか分かんない……。


「ねぇ……、
           ……どうしてほしい?」


 左手に持ったリモコンを操作しながら高樹くんが問いかけてくる。
 薄暗い部屋の中……
             高樹くんと二人でベッドの上で……
                                  手を握られながら————
                                                  (ど……どうしてほしい!?)


「字幕モードにするか……
                日本語吹き替えモードにするのか……」
                                   (え! ああ……そっちか……)


 “ビックリモード”になっていたあたしの心が落ち着いた。
 さっきの様にあたしはバカみたいに一人で勝手な妄想に突っ走っていた。
 何も答えなかったのに、英語の苦手なあたしに気を利かせてくれたのか高樹くんは、日本語吹き替えモードに設定をしてくれた。
 せっかく彼にこんなにも気遣ってもらっているのに、あたしの頭の中は今、DVDのストーリーなんて入る余裕がないくらいに高樹くんとの“これからのストーリー”の事で満員御礼になっている。


「……デザートが欲しいな」
 隣で高樹くんが呟いた。
「おなかいっぱいでも……デザートなら食べられるよね?」
「う…… うん……」
 小さな返事をして頷くと、彼はあたしの頭を撫でて立ち上がり、「待っててね」と言い、部屋を出ていった。
(デザートって……なにかな? アイスクリームかな? ん……それともケーキ?)
 あたしは頭の中に様々なスイーツを思い浮かばせた。


 ————高樹くんにとっての“甘いデザート”が、“自分”であることにまだ全く気付きもしないで……