複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.44 )
- 日時: 2012/05/02 14:04
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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バスに乗り、あたしは松浦くんのとなりの席に座った。
「じゃ、出発しますよ。」
バスが動き出した。
「待たせてごめんね…… 松浦くん……」
「………。」
あたしのせいでこんなに帰りが遅くなっちゃって……。 一応、謝ったはいいものの、やっぱり怒っているのか松浦くんは、何も言わずに肘をつきながら窓の外を見ている。
(チラッとでもいいから、こっち見てくれたっていいのに……)
あたしに対して……だけなのかもしれないけれど、やっぱり彼の心は氷の様に冷たい。 いや、違う……アレは氷なんかのレベルじゃない。 ドライアイスだっていったほうがいいかもしれない。
こんなひとに謝るんじゃなかった……。
初めて塾に行く時に、松浦くんに「あたしには 友達がいない」とバカにされた事を思い出した。 悔しいけれど、こんなに冷たくっていじわるな彼なのに、何故か学校では友達がいっぱいいて勉強もできるから頼りにされていて、女の子にも結構モテている。
あたしは隣に座っている松浦くんの顔をチラッと見た。
スッと通った鼻すじ、切れ長の目……どうもこのすました顔が母性本能をくすぐるのか、お母さんまでもが彼のことをハンサムだって言っている。
きっと塾でもそうに違いない。 みんな“本当の松浦くん”を知らないから騙されているんだ————
あたしは膝の上に乗せた手を思いっきり握りしめた。
「こっ、こんなあたしでもねっ…… 友達……ちゃんとできたんだよ……
————もう一人なんかじゃないもん……」
震えた声で挑発し、得意げな顔を作り、彼を見た。
「……誰だ。」
少し間をおいて、松浦くんはそのまま窓の外を見ながら聞いてきた。
「えっと…… 同じクラスの……高樹……純平くん……」
ガンッ!!
松浦くんは足で思いっきり前の座席のシートを蹴りつけた。 シートが壊れるかもしれないくらいの大きな衝撃音がバスの中に響き渡った。
「こっ、こらっ! 乱暴はやめなさいっ、松浦くん!」
ハンドルを操作しながら蒲池先生が彼を叱った。
「——チッ!」
松浦くんは一瞬だけあたしの顔を見て舌打ちをして、また窓の外を見た。
(まっ、負けないもんね……)