複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.75 )
- 日時: 2012/05/01 13:40
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
56>
「おウワサは かねがね聞ーてマー……ス」
(うっ…… うわさ!?)
“美しい”と“可愛い”をともに兼ね備えた、ほっぺに“えくぼ”をつけた笑顔の似合う長い黒髪の女の子。 彼女はあたしに向けた人差し指の先をクルクルと回しながら大きな瞳でジーッと見つめてくる。 どうやら彼女はあたしの事をいろいろと知っている様だ。
(あたしはこの子の事、何にも知らないのに……)
それにしても“ウワサ”なんて一体誰から聞いたのだろうか。 もしかして————
あたしはおそるおそる高樹くんの顔を見た。
彼は右手で頬づえをつきながら、あたしを見て微笑んでいる。
(————えっ? 高樹くんどうして笑ってるの……?
今度の日曜日、あたしたちデート……するんでしょ……?
この状況…… 絶対、気まずいはずなのに……!!)
高樹くんは優しくてかっこいいから女の子にモテるのは当たり前……。 でも……さっきのキスは一体何だったの……?
今までお互いの想いが通じ合っていたと思っていたのに彼の気持ちがさっぱり分からなくなってしまった。
モヤモヤとあたしの頭の中に黒い霧がたちこめる。
確かにあたしは高樹くんに「可愛い」って言われただけで、まだ「付きあってほしい」とは言われていない。
(あっ…… そういえば、前に読んだお母さんの週刊誌に書いてあったっけ————)
“男はその場の雰囲気で、好きでもなんでもない女に簡単に「好き」と言えるし、キスだってできる。”
思いあたるふしが……あった。
それは“やりまくりべや”に松浦くんと一緒にいた時————彼はあたしのことが嫌いなはずなのに……キスをした。
キスをされる前に、松浦くんに言われた言葉を思い出した。
「どうせ、恋愛小説なんかの世界にでも夢見て 浮かれちまってんじゃねぇのか?
————おまえ……高樹にメチャクチャにされるぞ……」
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.76 )
- 日時: 2012/05/01 14:09
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
57>
さっきから、あたしの顔をまるで品定めをしているかの様に見てくる黒髪の女の子は、再び口を開いた。
「なみこちゃんのこと、“マスコット・ガール”なんだってー。 健たちがいっつも言ってんだぁ。 ウフ、ホントだねーっ、イマドキ珍しい純情そうなかわいーコだぁー。
あっ、申し遅れちゃったケド、あたしの名前は小栗由季。 Aクラスにいる高樹くんの友達の『健』っていうヤツの彼女でーすっ。」
キーン コーン……
後半の講習の始令のベルが鳴った。
(健……。 なんか聞いたことがある名前だな……)
「————覚えてる? この前なみこちゃんのおしりを触った僕の友達……
————の“彼女”だよ」
高樹くんがあたしの方に身を乗り出して顔を近付け、耳打ちをした。
「あはっ、 なんか違う学校のコが友達って魅力的ッ。 仲良くしよーね! な・み・こ・ちゃんっ!」
さっき高樹くんに見せていた笑顔と変わらない笑顔で嬉しそうに、握ったあたしの両手をブンブンと大きく振って“由季ちゃん”は自分の席に戻っていった。
茫然としてる間に、先生が教室に入ってきて講習が始まった。
「心配…… した……?」
隣で高樹くんは回していたペンを机の上に置いて、あたしの手をふんわりと握ってきた。 彼に握られた手に持っている蛍光ペンがブルブルと震えている…… 目頭が…… あつくなる……
「心配なんて、しなくていいよ……。 さっきなみこちゃんが松浦くんに連れていかれた時の、僕のほうが心配したよ……」
頭の中にたちこめていた黒い霧が一気に晴れて、一粒の涙があたしの頬をつたった。
あたしはそれを軽く指で拭い、高樹くんに笑顔を見せた。
「エへ。 エへへ…… 心配なんてしなくていいよ……
————松浦くんとあたしだなんて……ありえないよ……」
————あたしはまだ 知らない。
あたしの見ていないところで 高樹くんと松浦くんの戦いの火蓋がきられて落とされていたことを……