複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.77 )
- 日時: 2012/05/02 14:31
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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《ここからしばらく高樹純平くんが主人公になります。》
「——純平。 急な話ですまないが……ちょっと来てくれないか」
(朝から、どうしたんだろ……)
バスルームから出た僕は、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングのソファーに座り、父さんの話を聞いた。
どうやら父さんと母さんは、二人で経営している女性物の下着の会社の都合で、急きょ明日から中国に一週間滞在することになったらしい。 ————まあ、昔からこんな事はしょっちゅうあるんだけど……ね。
(明日から一週間——。 この家には僕だけしかいない…… か。)
フッと頭の中になみこちゃんの顔が浮かんだ。
前に見た“夢”の続きを見たい……
もう一度会いたい……。 あの可愛い“エプロン姿”のなみこちゃんに————
母さんが大きなため息をついて、父さんと僕にコーヒーのおかわりを注いだ。
「……分かっているとは思うけど、純平、家に親がいないからといって、調子に乗って友達と外で夜遅くまで遊んでばかりいるんじゃないわよ。 ……近所の目もあるんだから」
僕はテーブルの上に何冊か重ねて置いてある、父さんと母さんの会社の通販カタログを一冊手に取り、膝の上で広げてペラペラとめくった。
(あっ、これこれ、こーゆーの……なみこちゃんに着けて欲しーなー、 ふふっ。)
「学校の成績がいくらいいからといっても、あなたは生活態度がメチャクチャでしょう……」
(ああー、コレはもっと大人になってからのほうが————)
「はぁ……。 お母さん、わからないわ……
だいたい純平、あなたはいつも何を考えて生きているのよ……」
——パタン。
僕は見ていたカタログを閉じ、小さくせきばらいをして立ち上がった。 そして片手を頬に付け、目を細めてジーッとこっちを見て反応を待っている母さんの肩に手を置いた。
「母さん……。 父さんと二人っきりで一週間…… 忘れちゃった愛をたしかめあってきてね……」
「——っ!!」
僕の言葉が彼女の頭に角を生やした。
「遊びにいくんじゃないわよ! 仕事でいくの! ————まったく! いったい誰に似たのかしら、この子は……」
「まあ、まあ、まあ……」
父さんの方はまんざらでもないらしく、楽しそうに笑いながら母さんをなだめている。
僕は手ぐしでヘアスタイルを整えて、母さんが注いでくれた温かいコーヒーを飲みほした。
「いってきまーす」
学校のカバンを持ち、父さんと母さんにVサインをして部屋を出た。
————僕の名前は高樹純平。 純平の『純』は……純粋の『純』。
友達は結構いる。
その中には女の子の友達も何人かいるけれども、恋にはならなかった。
しかし、ある日突然塾で出会った女の子“なみこちゃん”。
彼女に出会った瞬間————僕は生まれて初めて恋を知った。
玄関のドアを開けて、眩しく降り注ぐ太陽の光と風の香りを感じながら、僕は大きく深呼吸した。 やっぱり空気がいつもとは違う。
(今日は塾の日————。 はやくなみこちゃんに……会いたい……)