複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.82 )
- 日時: 2012/05/02 15:15
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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————前に健から聞いたことがある。
徳永さんが今、熱をあげている恋の相手は————松浦鷹史。
☆ ★ ☆
部活(バスケ部所属)を終え、学校から帰った僕たちは自転車で塾へ向かった。
(もうすぐ、なみこちゃんに会える……)
いつもかったるかったこの急坂が、なみこちゃんと出逢ってからは何とも思わない。
「ちょっ、 待てよ、高樹ッ——!」
「愛のチカラ……おそるべし……」
気が付くと、僕のいる50メートルくらい後ろで健たちがへたばっている。
僕はそのままペースを落とさずに高台まで上り、自転車を止めて、下に広がる街の景色を見ながら深呼吸をした。 心地いい風が髪を優しく撫でる……。
(うん…… ちょっと焦りすぎだな……僕)
「あせりすぎでござるぞ、おぬし……」
(——やっぱり)
汗だくになりながら息をきらしてやっと追いついてきた聖夜に怒られた。
いくら急いで早く塾に着いたって、なみこちゃんが乗っているバスが来る時間は同じなのに……何やってるんだ、僕……。 舌をペロッと出して「ごめん」と彼らに謝っておきながらも、再び高速スピードで塾へ向かって走った。 この胸のドキドキは自転車のペダルを思いっきりこいだからではない。 たぶん、それは————
☆ ★ ☆
「あ、 なんだ? 高樹、それ。」
塾の自転車置き場に着いてから、昨日サイクルショップで僕の自転車の後ろに取りつけた荷台に、健がやっと気が付き、指をさしている。
「もっと早く気付いてよ……」
自転車に鍵をかけ、僕は健に向けて手の指をピストルの形にして「バーン!」と撃った。
「……ほほう。 これは羨ましいでござるな。 背後から手を回されて……なみこ嬢の可愛らしい胸が密着とは…… うむむ————純情そうな顔しておぬしもなかなか……」
「——聖夜。 こいつ最終的には“自分の上に”乗せる気だぞ。 まったく、けしからんヤローめ。」
“恒例”の(下ネタ)妄想トークがはじまった。 こーゆーのホント好きだな、こいつらは……
「ふふっ。 いつかはね————って、何いってんだよ。」
そうこうしているうちに駐車場に塾のバスが入ってきた。
「!」
バスから出てきたなみこちゃんが、松浦鷹史に強引に腕を引っ張られて、泣きそうな顔で怯えている。
(何しやがる、あいつッ——!!)
僕は健たちをほったらかしにして、急いで彼女の元へ走った。
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.83 )
- 日時: 2012/05/02 16:08
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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「悪ィな、高樹君……。 少しこいつ借りてくわ。
大丈夫、大丈夫、あとで、ちゃんと返すって。 な?」
松浦鷹史は僕のなみこちゃんへの気持ちを知っていながら、わざと神経を逆なでするかの様に挑発的な笑みを浮かべ、彼女を塾の中へ連れこんでいった。
「助けて」
なみこちゃんは何度も振り返り、目で僕にうったえていた。
(————待ってられるか!! 大丈夫じゃないだろ!!)
これも生まれて初めての感情だった。 僕の中で何かがブチッときれた。
「——っ!」
僕はすぐになみこちゃんを連れた松浦鷹史を追いかけ——————————られなかった……。
「高樹クゥーン……」
「!」
僕の腕に徳永さんが大粒の涙をボロボロとこぼしながらしがみついている。
(ああ…… 彼女もアレを見たんだ……)
バスから降りてきた松浦鷹史をつかまえて“いざ”告白しようとしていたのだろう。 可哀そうに……
気合いを入れてまつ毛にマスカラをたっぷり塗りつけていた様で、目の周りがパンダの様に黒くなっている。
「ヒドイィ…… ヒドすぎるゥー……」
さらにラメ入りの真っ赤のリップグロスが前歯にベットリと付いている。
「……大丈夫だよ」
(ああ……僕、今こんなことしてる場合じゃないのに————)
塾に来る人達が、みんな立ち止まって僕たちの事を見ている。
(——勘弁してよ……)
——これじゃあまるで僕が徳永さんを泣かしてるみたいじゃないか……
僕は自分の腕から彼女の腕をそっと外して、なんとか落ち着かせようとした。
「……まだ伝えてないんでしょ、 ……泣かないで」
「!」
彼女は今度は僕に抱きついてきた。
「おおーっ!!」
周りが一気にざわめき出した。 野次馬の中にいる“徳永さんのとりまき(?)”の二人の女の子は、予定外の彼女の行動に驚きながらも小さく拍手をしている。 これはマズい……。 もしもコレがヘンなウワサになってなみこちゃんの耳にでも入ったら————
僕に磁石の様にひっついている徳永さんを引き離し、
「……おいで」
僕は彼女の手を引いて自転車置き場に戻っていった。
「ごめん!聖夜、あとたのむ! なぐさめてあげて!!」
いきなり“そんな事”を押し付けられて目を丸くしている聖夜の手に、徳永さんの手をムリヤリつながせて、僕は塾の中に飛び込んだ。
(——どこにいる松浦鷹史……! なみこちゃん……!!)
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.84 )
- 日時: 2012/05/02 16:15
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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(一階は職員室と三年生の教室だから……おそらくいないな……
——二階にいくか……)
「……高樹。」
階段を昇ろうとしたら、誰かに声を掛けられた。
(こんな時に限って誰だよ……って、 うわっ!)
引退したのだから、もう関わることはないと思っていたのに……。 誰がどう見たって成人男性様な彫り深い顔、そして怪物の様な雰囲気を漂わせるこの男は、同じ学校の、僕の所属している男子バスケ部の部長を以前務めていた黒岩先輩だった。
「————話がある。 来い……」
低く重たい声で、身長180センチ以上もある黒岩先輩が腕を組んで僕を見下ろしている。 相変わらず視線だけで目の前のものを覆い尽くしてしまう様な威圧感で、思わず生つばを飲んでしまう……
実は、僕は彼が苦手なのだ。 厳しいからでは ない。
乱暴だからでも、ない。
陰険だからでも、ない……
————それは…… “僕だけ”に異常に優し過ぎるから……