複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.91 )
- 日時: 2012/05/02 17:00
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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「可愛いな……。 もしおまえが女だったら良かったと思っていたけど……
フッ。 まあ、こういうのもいいなあ…… 刺激的で……」
鼻息を荒くした黒岩先輩は、僕の尻を撫でていた手を離し、ドアの取っ手に手を掛けた。
ガチャッ、
ガチャ ガチャ……
どうもドアには鍵が掛けられていた様で、取っ手には“使用中”と書かれた表札が、ぶら下がっている。 幸いなことに“ヤリまくり部屋”は偶然にもちょうど今、この塾のカップルの誰かに使われていた様だ。
「チッ! ……先約があったか、クソッ!」
取っ手から離してグーに握りしめた手とおでこを、レザー張りのドアに付けて先輩は舌打ちをした。
「————しかたないな、あきらめるか……」
「あきらめる」と言われた時、喜んだのもほんのつかの間だった。
僕の頬を軽く指でつつき、
「また今度…… な」
とがった八重歯をチラッと見せて言い残し、彼は走って自分の教室へ戻っていった。
(……甘かったな。 恋に障害があると燃える、ってよくいうけど、コレはちょっと……いただけないよ……)
ヒドイ目には遭ったけど、松浦鷹史となみこちゃんが三階にいなかったことにホッと胸を撫で下ろし、僕は二階に戻る事にした。
(あんなこと言っといて、僕のこと騙したんだな……松浦鷹史……)
いつの間にか講習の始まる時間間際になっていた。
(なみこちゃんとの時間がなくなっちゃったじゃん……。 僕はあんたと違って、一緒にいれる時間が少ししかないのに……)
しかもよりにもよって二人っきりになっていた相手が黒岩先輩ときたもんだ。 チャンスを見付けて今度こそはなみこちゃんに僕の気持ちをはっきり伝えて“この前の続き”をしたいと思っていたのに————
大きなため息を落として僕は階段を降りていった。
「!」
————何やら後ろから足音が聞こえる。 その足音が早いペースで僕の方に近づいてくる……。
トン トン トン トン……
小走りで階段をかけ降りてくる足音。 嫌な予感が僕を襲う。
(“ヤリまくり部屋”にいたのは、もしかして……)
僕を追いこす手前で————その足音が止まった。
「————やあ、高樹君……」
不安といかりが混じり合った感情が僕の体全体に広がる。
さっきの嫌な予感が的中した。 三階から降りてきたのは————松浦鷹史だった。
僕は振り返らずに、両方の手の平ににじんだ汗をズボンで拭いて彼の言葉を聞いた。
「武藤のやつ…… 暴れるわ、叫ぶわで大変だったぞ……
デリケートだか何だかよく分かんねぇけど、まったく処女ってモンは扱いかたに困る……。
————今“あそこ”で……再起不能になってるぜ…… ククッ。」