複雑・ファジー小説
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.99 )
- 日時: 2012/05/03 21:41
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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☆ ★ ☆
前半の講習を堂々とサボって甘いひと時を堪能した僕達は、休み時間に教室から出てくる人たちに紛れて何食わぬ顔でBクラスの教室に戻った。
なみこちゃんはこのクラスでたった一人の原黒中出身、そして僕は普段から頻繁に講習を抜け出してサボっていた事がちょうどカモフラージュになっていたからだろうか、教室にいなかった僕達に対してアレコレ詮索してくるような人はいなかった。
「……楽しかったね」
「………。」
言葉では何も返してこないなみこちゃんだけど、頬を赤らめながらつないだ手をギュッと握り返してくれた。
僕の場合は先生に気付かれさえしなければそれでいい。 なみこちゃんと“ヤリまくり部屋で愛し合う関係”なのだと公表したって構わない。 ————でもなみこちゃんは女の子だし、もし、そんなコトになったらきっと困らせちゃうだろう。
なみこちゃんと僕の……二人だけの秘密、か————
「!」
なみこちゃんとのデートの事で浮かれていて、さっき彼女と一緒にいた“あの部屋”に僕のジャケットを忘れてきてしまった。
「——ごめん。 ちょっと待ってて」
なみこちゃんのフワフワした柔らかい髪をクシャッと撫でて、僕は教室を出て再び三階へ昇った。
階段を昇る途中で僕は足を止めた。
何やら三階の廊下で大きな声が聞こえる。 耳にツンと突き刺さる様な甲高い女の子の声だ。
(ああ、あの声は……)
どこかで……いや、何度も聞いた事のある声。 以前は健たちよりもといってもいい位な程、僕のそばにいたけれど、“ある日”を境に離れていった女の子————
「どうして!! 静香のドコが気にいらナイっていうのヨッ!!」
————やっぱり徳永さんの声だった。
(ケンカかな……)
彼女は見た目もハデだし自意識が強く、いろんな意味で先輩に目を付けられる事が多い。 なんてったってあのダイナマイトな体型。 “逃したマーメイドは大きいぞ(胸が)”と部活の先輩達にことごとく冷やかされたっけ……
(マーメイド、か……。 地味にしてたら結構かわいいと思うのに……)
「————静香のコト…… アナタの自由にシテもいいって言ってルのに……」
「——ぶっ! ごほ! ごほごほ……」
あまりにもロコツなマーメイドのコトバに驚き過ぎて咳が出てしまった。
(ちょっと待ってよ……なんだあの、へんな告白…… ん? 告白?)
告白の相手、って…… “あの部屋”には、入ったのか……?
階段を昇りきったところで“相手の男”の冷たい声が聞こえた。
「……じゃあ、もう俺につきまとうの……やめろ。」
- Re: たか☆たか★パニック 〜ひと塾の経験〜 ( No.100 )
- 日時: 2012/05/03 21:58
- 名前: ゆかむらさき (ID: dKbIszRw)
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三階の廊下で徳永さんが、松浦鷹史に愛の告白をしていた。 ————しかし(やっぱり)うまくはいかなかった様だ。
(あんな告白の仕方じゃあムリないよ……)
いつも高飛車で自信に満ちあふれている徳永さんが、床に両手を置き、ひざまずいて泣きじゃくっている。
そんな彼女に一切目も触れず、松浦鷹史は片手に僕の忘れたジャケットをぶら提げ、窓の外の遠くの景色を見ながら大きなため息をついて話しだした。
「……悪ィな。 俺、今、好きな女がいンだよ。
————でも、まァ……“そいつ”をまだ俺の女にしてねぇ事だし、見返りを求めずタダで奉仕してくれるんなら、それはオイシイ話だが……
……おまえとだけは、死んでもヤル気になんねぇなァ、ハハ。」
「——ッ!!」
階段の陰から二人のやり取りを見ていた僕は、我慢ができなくなって飛び出した。
そして、涙でベタベタになった床に突っ伏せて丸くなっている徳永さんのそばに歩み寄り、腰を落として背中に手を置いた。
「教室に……戻ろうか……」
すると松浦鷹史は手に持っていたジャケットを僕に向けて投げ付け、
「紳士だねェ……。 武藤と、どさくさに紛れてヤリまくってたくせになァ!」
————片手を腰に当て、いやらしい顔でニヤニヤしながら僕の方に歩み寄ってくる。
「——ごめん。 今、ティッシュしか持ってなくて」
ズボンから出したポケットティッシュをそっと徳永さんの手に握らせて、僕は立ち上がり、彼を思いっきり睨み付けた。
「んん? 高樹君。 どうしたのかな? そんなこわい顔して……
かわいい顔が台無しじゃないか……」
「………。」
(まだ女に、してねぇ……?)
歯を食いしばりながらずっと彼から目を逸らさなかった。 許せない……。 “恋敵”だからとか、そんなカワイイものじゃない。 こいつは“もうすでにスイッチの入った時限爆弾”だ。 こんな男のそばになみこちゃんを置いておくなんて危険すぎる。 さっきはたまたま“未遂”で終わったのだろうけど、いつか、そのうち僕の知らない間に、僕が見ていないところでこの男はなみこちゃんを————
暗く静かな廊下に徳永さんの泣く声だけが哀しく響き渡る。 哀しいのは彼女だけではない……。 彼の黒い泥に濁った心も————
松浦鷹史もずっとそのまま僕の顔から目を離さずに白い歯を見せて「ククッ。」と嘲笑い、徳永さんを足で指した。
「なァなァ、どうだよ、その女……。 そいつと付き合うと、もれなくスッゴいサービスが、てんこ盛りで付いてくるらしーぜ。 高樹君……」
「————松浦アッッ!!」
僕は彼の胸ぐらをつかんで叫んだ。