複雑・ファジー小説

本編1 ( No.5 )
日時: 2011/05/07 17:49
名前: 桜庭遅咲 ◆ilG1GceQB. (ID: khvYzXY.)

ざわざわと、朝の教室。

学校の隅のほうにある“A組”の教室。

いつもと大して変わらない談笑。

全員の笑顔が同じものに見える。

当たり前。

表情も、感情も、同じようにプログラムされているんだから。

僕ら、A組の生徒は全員、ヒューマノイドだ。

プログラムされた心に疑問を持つ奴なんていない。

そもそも心が無いなら疑問なんて抱くわけが無いし、仮に疑問に思っても心のない僕たちが独自に答えを導き出すことは不可能に近い。

「おっはよー!今日もいい天気だな、ヨウト」

席につきながら、隣の席の奴に挨拶をする。

そいつの名前は、ヨウト。人間風に言うと中西陽斗。

作られたとき…つまり工場からずっと一緒にいる。

人間は、こういう関係を幼なじみ、とか腐れ縁っていうらしいね。

「おー、おはよ、リン」

ちなみに、関係ないけど、ヨウトの方が型番的にも設定年齢的にもおにーさんだ。

「あのな!昨日の夜、星がすっげぇ綺麗だったんだよ!」

少し興奮したように話を切り出すと、ヨウトは無表情になり首を傾げた。

別にくだらない、とか思ってるわけではなく適切な表情、感情を探してるだけ。

最新型のΣ型には困る、という感情、表情があるらしいけどね。

残念ながら僕もヨウトもS型である。

と、いうかここA組の生徒はA型かS型だけだ。

「その興奮したような口調と興味の対象が凄く人間ぽいな」

ヨウトが無表情なまま言う。

どうやら適切な感情が見つからなかったみたいだ。

「そうかなぁ?」

ちょっと苦笑い。

苦笑い、は曖昧で使いにくい表現だって言われてる。

興奮もおんなじ。

まぁ、心のない僕たちがプログラム外のことに大きく興味を示すことがないから、興奮なんてほとんどするはずないんだけど。