複雑・ファジー小説
- Re: ねぇ、信じてよ。 ( No.5 )
- 日時: 2011/05/20 19:51
- 名前: キリア ◆Dl2ahzdhQs (ID: ZTrajYO1)
3.え?僕のこと?
それから三日後の土曜日のことだ。
近所のガキが朝からギャーギャーやっているから、心地の良い布団の柔らかい感触を忘れて、うっかりまぶたを開けてしまった。
去年の誕生日に瑠歌からもらった、クマの時計を見ると、まだ八時過ぎ。
私が窓を開けて、「っるっせぇ!!」と怒鳴った声が、街中をしらけさせたことは、言うまでも無いだろう。
この言葉遣い、どうにかしたほうがいいのかな?
もてるもてない、興味ないけど。
「おい、うるせーぞ」
「はいはい、すみませんねー」
隣の部屋に住む隣人の怒鳴り声とともに、壁がすさまじい悲鳴を上げた。
私も私でうるさいが、隣のジジイはもっとうるせーよ。
うんざりして、布団から這い出すと、私はパジャマのままキッチンに向かった。
「あーあ、せっかくの休日の朝があのジジイとガキで台無しだよ」
呟きながら、コーンフレークを皿にいれ、牛乳をどばどばと注ぎ込んだ。
勢いよく入れられた牛乳が、皿をはみ出して古いキッチンのシンクに滴り落ちた。
錆びが入って、少し黒っぽくなっている牛乳。
「ッチ」
私は乱暴に布巾で牛乳をふき取ると、コーンフレークの入った皿をテーブルに持っていった。
一人で食べる朝食は、あまり美味しくは無い。
時々瑠歌が泊まりに着てくれるけど、やっぱり一人暮らしは一人暮らし。寂しいものは、寂しいのだ。
まあ、隣人やガキに喧嘩を売ったりして、寂しさは紛らわすことができる。でも、とめてくれる人がいないのも、かえってむなしい。
私は、幼いころ起きた津波で、両親と弟を亡くした。
もっと詳しく言うと、五歳くらいのとき。今から、ざっと九年前くらいだろう。
九年も昔のことだけど、あのときのことは、いまだにハッキリと思い出せる。
押し寄せる波。私達をかばう両親。泣き叫ぶ弟。波に飲まれたとき。気がつくと一人きりで、瓦礫の下に挟まっていた。近所のおじさんが、私を助けて、「悪魔だ」と叫んだ。
津波は自然現象だから、誰にも怒りを、悲しみをぶつけられないのが嫌だった。
今は、親戚が持っているアパートに住まさせてもらっている。
取り返せるものなら、取り返したい。あのころを。
悪魔なんか、いなくなれ。