複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.105 )
- 日時: 2011/10/09 16:43
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
墓地なんか、行ったことがない。そんな未知なところに私の身体は焼かれ、灰になり、入れられてしまうのだろうか。
「残念だな。それは全くない」
とある声が聞こえ、私は軽く頭痛を起こした。
「んぅ……? ガイ、キ?」
片手には温かい感触がある。自分より一回り小さな手が、温かく、強く、握ってくれていた。
目を開けると、其処にはガイキではなく、彼の姿があった。
思わず溜め息が漏れる。
「……なんだそのため息は」
「だってさぁ、恋人でもタイプでもない男に手ぇ握られてて喜ぶ女がどこにいるのぉ?」
「…………」
彼は疑問の表情を顔に浮かべたが、すぐに無表情へと変わり、私の手を鋭く突き離した。
身体を起こそうとすると、彼に鋭く制された。どうやらわき腹と太ももの筋が切れて、肉がえぐれていたらしい。
「カニバリズム……食人鬼と呼ばれた人種がいたが、それの末裔か、血を受け継いだのだろうと、マニュアル屋の解説だ」
「……ふぅん、で、君はなんでそんな汚いドブ水みたいに汚れた身体で、私の近くにいるの。てか、なんでここにいるの」
「ひどい言い方だな。俺はマニュアル屋に此処でお前を監視していろと言われただけだ……。誤解するな、さっきのは脈をとっただけで俺だってお前みたいな奴はタイプじゃねぇし」
私に睨まれ、彼は軽く委縮し、両手を振って否定する。まぁ本当のことだとは思うけどなぁ……可愛いなそう言う性格☆
「やーい、ツンデレツンデレ。隠れヘタレー」
「う、五月蝿い! 俺はお前を心配してやってわざわざここに……」
「まぁまぁお二方、争い事はやめぇな」
論争が始まろうかとした時、気の抜ける声が響き、顔を上げるとジュンさんがにこにこして立っていた。
「もう大人だっちゅうのになぁ……子供みたいに喧嘩しないでください」
「……っ俺のせいじゃねぇよ! こいつが先に……」
「ほぅらぁ。其処が子供っぽいんだよぉ?」
顔を紅潮させ彼は私を睨みつけるが、その仕草すら子供っぽく見え、私は大爆笑。ジュンさんも口に手を当て、肩を震わせる。
「……そや、ニューちゃん。ガイキ、落ち着いたで。会ってやれへんか?」
それもそうだ。傷ついたガイキを今私が慰めずにどうする。
しかし、やはり恐怖心というものがあった。というか、起きることもできないからなぁ……どうしよ。
「其処は心配せんでもええ。クロちゃんと俺は外すから」
そんな私の心を見透かしたように、ジュンさんはそう笑った。うん、感謝するよ、こういうとき、ジュンさんの能力が。
まだ愚痴る彼の声は遠ざかり、気後れしたような小さな小刻みの足音が聞こえた。
私はただ、ガイキの心を、待った。
外に出ると、雨だった。俺は軽く溜め息をついたが、彼はそんなこと気にせず、小雨の中を早足で進んでいく。
「待って下さいよぉ。一つ、お話があるんです」
「待てるか。……期限が迫っている。早く見つけ出したいんだ」
「そのことなんですけど」
その一言で、彼は立ち止り、恐々と俺の方を振り向いた。
もしかしたら彼は、気づいていたのかもしれない。
「調べましたところ……
貴方の弟さん、戸籍、なかったです」
「……っは? うそ、だろ?」
彼は冗談だろうと笑う。しかし、その眼はしっかりと俺を見据えていた。
「記録も残っていません。貴方はれっきとしたひとりっ子でした」
「嘘、だ。なんだよマニュアル屋……この場に及んで、俺を死なせてくれないのか……?」
「その件についても、ラブコールからの返答が来ました。
貴方の件は、受け付けられない、と」
絶望の色が、彼の眼に広がった。
崩れ落ちるように地へと座る彼を俺は支えようと手を差し出し、そのまま雨で滑り、バランスを失う。
あぁ、やっぱり。俺も動揺してんだなぁ……。
共に倒れこんだ彼と俺は、そのまま数十秒、動かないでいた。
空は雨雲が広がり、それでいて、青空が広がっているようにも見えた。
「それで、生贄は貴方がいいと思ったんです……」
彼の件を受け入れなかったラブコールは、その代わり、俺の望みを受け入れてくれた。
みんなが幸せに、生きること。そのためには生贄が必要。俺では、駄目。
「ごめんなさい……」
「……だからか。だから……俺がいくら探しても……思い出そうとしても……無理だったのは」
彼は笑って、俺に頷いて見せた。
「……謝るな、心残りができるだろ」
後悔。後悔が残ると、幽霊になってしまうか。
その時にはアヤノちゃんのお世話になろうかな。
「立ちましょうか」
手を差し出すと、彼はいいと否定し、曇った眼で雲を見上げた。
「濡れてる」
「分かりました……」
俺は苦笑し、その傍らに腰を下ろした。
そして、家に帰ると、ニューの姿は何処にもなく、ガイキが蹲り、ただただ、元恋人の名前を、肉片に向かって、叫び続けていた。