複雑・ファジー小説

Re: Love Call ( No.110 )
日時: 2011/10/15 01:41
名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)

 雪は積もっていて、一足進むごとに、身体全体が沈むようなそんな感じがした。

 私は粋の手を引いて、やっとで進んでいるような状態だった。雪山なんて普通個ないし、登山なんてする格好でもなかったけど。なんとか頑張るしかないよね。

 シャムシエルと話せる時間は少ない。さっきから私の意識が途切れいるのか、話しかけてもシャムシエルは返事をしてくれない。

「それで……弟の身体を探せば……いいっていうの? あの人は」

 軽く息切れしながら、粋は私に問いかける。私も息切れしているので、頷くだけだった。

 シャムシエルの話からしたら、そうなのだと思う。死んでほしくはない、と強くは望んでいるわけではないが。今まで幽霊と話をしていて、特に自殺をした人の幽霊と話をしていて、心が強く打たれることはない。ただただ、深い深い悲しみがじわりとしみついて、黒く染められるような、そんな思いしかしない。

 私の母も、そう言っていた。

「殺された幽霊ほど、悲しい人はいない」って。

「……なんか、変だね……そんな簡単にあきらめるくらいなら……最初から依頼なんかせずに……自分で命を絶てばいいのに……」

 粋の言葉には私も頷けた。だって、そんなに簡単に自分の命を差し出すことは出来ない。

「……ねぇアヤノ……本当に……信じていいのかな……?」

 シャムシエルの話は、疑い部分がないとも言えない。獣に食われたと言うこともありうるとは思うが……。私は微かに首をかしげて見せたが、すぐその後に、縦に振った。

 信じることを忘れてはいけない。私は今までずっと信じ続けてきた。だまされることもたまにはあった。でも、それでも信じることはやめたくなかった。

「信じる?」「信じる」

「絶対に? シャムシエルって人、絶対に信じるの?」「信じる」

「……何処からその自信が出てくるの?」「……信じるもん」

 弱くなる私の回答に、粋は小さく溜め息をついたが、すぐに微笑み、一緒に付いてきてくれた。



 シャムシエルの言っていた場所までつくと、私はいったん立ち止まり、そっと眼を閉じた。

 シャムシエルがいないことがなんとなくだが分かっていた。何故いないのか。粋の問いかけが心に響いた。

「シャムシエル。お願い、来て」

 問いかける。ねぇ、貴方は絶対に、私に嘘なんか吐いてないよね?

 ねぇ、ねぇ。クロさん。お願い。嘘ついたりしてないって……本当に?

「シャムシエル……ねぇ」

『ごめん……』

 なんで。なんでごめんなの? なんで謝るの?

『ごめん……アヤノ。アヤノ……』

 なんで……? ねぇ嘘だよね? シャムシエルは嘘なんか吐かないもんね?

 彼も、彼も嘘なんか……。

『アイツは……アイツに、私は気付いてほしくなかった。弟の存在だけが、アイツをつなげる方法だった。心を傾けることができる、弟の存在だけが……アイツを……私につなげる唯一の方法だった……』

 シャムシエルは、泣いていた。幼くて、肩震わせて。

『怖かった。一人になるのが……私はアイツを殺したくなかった。アイツが自分が死んだことに気づかないのなら……それでいいんじゃないかって……』

 それは世界の規律に背くこと。本当は死ぬはずだった人を生かすのは、それは、いくらなんでも駄目なんじゃないの……?

 幽霊が彷徨うのは、とても辛いことなんだよ。シャムシエルも、分かることでしょ!?

『ごめん……アヤノ。全部全部……。

 
 アイツの夢、なんだ……』



 夢、っていっても。嘘、なんでしょ?



「アヤノっ……! 大丈夫? アヤノ……」

 ショックが眼に見えて分かったのか、粋は必死で私の肩を掴んで揺さぶった。

「アヤノ……大丈夫? 嘘って? 何……なんなの?」

 嘘。人間、生きていく中で絶対に付く嘘。嘘が嫌いなんて言ったら、なんだか嫌な気分になる。だったら私は、自分を飾っていなかったって言える?

 泣いているシャムシエルをぎゅって抱きしめて。私も、一緒に泣いた。



 夢は、ほぼ嘘なんだ。

 そう、知ってしまった。