複雑・ファジー小説

Re: Love Call ( No.16 )
日時: 2011/08/03 13:49
名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)

 姉原は言う。この世に幽霊なんか存在しない。

 人間、死んだらそれで終わり。あの世もこの世もない。ただ、終わり。そこで終わって、忘れられるだけ。

 よく、死んだ人間は、その人間を覚えている他人の中で生き続けると言われるが、それも嘘。どうせ、みんな忘れていくに決まっている。

 だから、姉原は朝霧に忘れろという。先生と過ごした四年間を全て忘れろという。忘れたら、幻覚も見ないという。


 そんなこと、出来るわけがない。

 だって、先生は生きているんだから。

 先生はいつか、自分のもとに帰ってきてくれるのだから。


 いつも持っている先生の白衣は取り上げられた。それでもいい。先生の残り香は自分をいつでも包んでくれる。

 先生の声。いつまでも忘れられない。あの時先生が笑って、自分の手を握って、言ってくれた約束。

 救急車の音。大人の人たちの声。その音に掻き消えながらも、先生は何度も何度も言ってくれた。約束は守るって、そう言ってくれた。

 だから信じるよ、先生のこと、ずっと待ってるよ。


 先生のこと、忘れないよ……。