複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.17 )
- 日時: 2011/08/10 12:16
- 名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)
「お前も見ただろう! お前の先生は焼かれて、骨になったんだ! いい加減諦めろ!」
姉原は泣きじゃくる朝霧に容赦なく現実を突きつける。
朝霧の手には、またあの布切れが握られていた。姉原がいつまでも泣く朝霧に仕方なく返したものだったが。
「一日中それを相手に遊ばれてちゃ、こっちもどうにもならないんだよ! 勉強はどうした! 学校はどうしたんだ!」
今日は月曜日だった。休み明けで、学校にも行きやすいだろう……そう思う姉原の気持ちだが、朝霧は泣きやまない。
仕方なく、姉原はいったん黙り込み、放り投げられたランドセルをつかんだ。
「今日行かなかったら、一生いけないぞ。ほら……」
まだ新品のランドセル。それもそうだろう。数回しか使用していないのだから。こうなればどこかのリサイクルショップに売りつけた方がこのランドセルも本望なのではないかと、姉原は最近、思うようになっていた。
無言の朝霧。布を握りしめる指の関節は白くなり、震えている。
今日も駄目だった……。
姉原は朝霧の髪を撫で、立ち去った。
「あー……はい、日向教室の朝霧の保護者です……はい、ちょっと気分が悪いようで……すみません」
担任は、諦めたように苦笑していた。
「じゃあな……昼には戻るから」
まだ無言の朝霧を残し、姉原は玄関に向かった。
——先生の靴が無くなった……——
朝霧がそう、泣きながら訴えていたのを思い出した。
確かに、玄関には、姉原の靴しかない。生前、花狩が使っていた靴は、必ず朝霧が並べているはずなのに。
「……そんなはずない」
どうせ、朝霧が隠しているのだろうと思い、玄関の近くの扉を端から開けていく。
どこにもなかった。
……どう言うことなのだろうか。朝霧が靴を部屋の中に持ち込むなど、花狩にしつけられていたのだがら、まずないだろう。
悪寒が身体を襲った。
「いるのか……本当に」
玄関で立ちすくむ姉原。遠くではまだ、朝霧のすすり泣きの声が聞こえてくる。
今は信じられない。本当にいるのかすら分からない。
ただ、縋ってもいいような気がした。
「花狩……」
名前を呼んでも、来ないのは分かっている。しかし、姉原もまた。
花狩と話してみたいと思っていた。
「いるのなら……早く来てやれよ……朝霧が寂しそうじゃないか……」
ドアを開け、まだ低い太陽の位置を見る。
今日も、熱くなりそうだった。ふと、朝霧のことが心配になったが、一日つきっきりでもいけいない。
姉原は不思議な余韻に駆られながら、その場を後にした。