複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.18 )
- 日時: 2011/08/10 21:42
- 名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)
そして、とある”異変”が起こり始める。
「もしもーし! 誰もいないんですかー?」
朝霧は誰かの甲高い叫び声と、チャイムの連打音で眼が覚めた。
眠い眼をこすり、伸びをしながら恐る恐る部屋を出て、玄関に立つ。
「帰りますよー! って言うか、此処って保護者いないわけ!? 意味がわからない。第一何よ! なんでこの私がこんなボロっちい家に来なきゃいけないの!? ったく、やってられんわ」
嫌がらせなのだろうか。ドアの向こうで甲高い声は悪口にも捕えられる言葉の連鎖を吐き続けている。
ご近所迷惑だと、出ていって、注意した方がよいのだろうか。それとも相手にしない方がいいのだろうか。自分にとってはそっちの方が楽なのだが……。
「……」
押し黙る甲高声。ほっとした朝霧がまた部屋に戻ろうとした時だった。
「大体……この『花狩』って人。
六年前、死んでるじゃない。
ここらじゃ有名よねぇ、この名前。こんな田舎ででっかいトラックにはねられて死んだなんて、珍しいもんね。カワイソー。あーやめだやめだ。こんな死んだ人の家に誰も住んでないに決まってるじゃない。ったく、人違いも甚だしいわね」
遠ざかっていく愚痴と足音。
死んだ。
六年前。
ここらじゃ有名?
トラックにひかれて。
珍しい。
かわいそう。
かわいそう? 先生はかわいそうなの? 不幸だったの? 先生は不幸だったから死んじゃったの?
「先生は死んでなんかないもん!
生きてるもん!
絶対に……絶対に帰ってきてくれるって、言ってくれたもん!」
気づいた時には、裸足で外に飛び出して、少女の服の袖をつかんで、そう叫んでいた。
「だ……だから……そんなこと言わないでよ……言わないでよっ!」
袖をひっぱり、講義をする。先生は生きているんだと、死んでいないのだと。
「そうだよね」
「……へ?」
いきなりの肯定に、朝霧は思わず反論をやめ、顔を上げた。
少女は、ネコ目を細め、にかっと笑い、朝霧の髪を撫でまわした。
「そーだよ、そう。その言葉を待っていたのだよ、君。確かに……
君の先生の意志は生きている。
おっと、そのことについて色々話したいところだけど、ほら、夕方だし、君の保護者の方も来るでしょ? その人と一緒に話した方がいいから……ほーら、走るぞ!」
朝霧の手をひき、無理やり走り出す少女。朝霧はただ、その力にあらがう方法を思い付かず、小走りに手をひかれていった。
その、少女からは不思議と、先生の匂いがしたような気がした。