複雑・ファジー小説

Re: Love Call ( No.36 )
日時: 2011/08/31 12:38
名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)

 ゆーた?

 優太……優太優太優太優太優太優太優太優太優太優太優太優太優太。

 どうして? どうして?

 貴方のせいだよ。貴方のせい貴方せい貴方のせい。

 みんな死んじゃった。貴方のために。貴方だけのために。どう思う? どうも思わないの? 貴方のせいでみんな死んじゃったんだよ?


 つまり貴方が殺したんだよ?


 殺した。怖かったから。近くに包丁があったから。お姉ちゃんが、僕を、脅したから。僕が、殺したって言うから。


 僕、死にたくなかった。


 それはいけないことなんですか?


「いけなくはないと思うけど」

 翡翠は自嘲気味に笑った。

「道徳的には、最低だね」


 ホワイトクリスマス。珍しい日。外は太陽が出ていて、白い雪がその光を全部、全部僕に向けていた。

 赤い、僕の服。

 サンタさんも、殺しちゃったのかな。


「翡翠ちゃん……? 具合どう?」

「……気持ち悪い」

 寝返りながら、翡翠は眼を開けた。

 海人は微笑み、朝食を傍らに置く。

「……まだ雪降ってんの?」

「昨日の夜のうちに積もっちゃってるよ。朝霧君が雪だるま作ってる」

「……ガキ」

 本心は行きたいのだが。どうも体が許してくれない。

 雑音が頭の中で渦巻いている。断末魔や吐血の音、何かを引き裂くような手応えが、指を痙攣させる。

「追体験……?」

「そう。いずれは君にもある奴だよ。たぶん死に際とか見えると思う」

 海人は兄、姉原の意思を受け入れるため、なりきりを引き受けてくれた。幽霊をあそこまで信じてくれる人間はかなり少なく、翡翠が逆にひいたほどだ。

「……兄さんは本当に来るのかな」

「たぶん。朝霧にお別れでもいいに来るんじゃないかな。良いね、愛される人は」

「翡翠ちゃんは?」

「私は全然駄目。もともとから性別なんて越えられないもん」

 男性……しかも十歳ぐらい歳の離れた意思を受け入れたのが間違いだったのか。いや、あっちが勝手に訪問したのが間違っていると思うのだが。

「でも、手ごたえはあるよね」

 眠らずとも干渉が強くなっている。共通点が多く発見されたことかもしれない。最近髪も切り、茶色に染めた。男物の服を着て、喋り方にも気をつけている。

「あと少しだと思う」

「その後は、どうするの」

「此処から出ていく」

「家は?」

「ないから。だからまた、他のところに居候する」

 世の中、幽霊などたくさん存在する。その意思を片っ端から取り入れていけば、一生分居候生活をすることだえ可能だと思う。

「……ねぇ、良かったら僕の家に来ない?」

 意外な提案に、翡翠は目線を上げ、思いっきり眉根をひそめた。

「な、何? そんな嫌だ?」

「嫌だね。一日中姉原にいじめられそう。それに……君の家、結構な金持ちなんでしょ? そんなところに捨て子同然のホームレスが来ちゃったら、イメージダウンになるし」

 すると、海人は笑い、頭を掻いた。

「残念ながら。僕は只今家出中だから、お金も全くない状態なんだよ」

「家出? またなんで」

 姉原は以前に、可愛がってもらったと言ったことがある。

「僕たちには最上級の愛情が与えられていたんだけどね。僕も兄さんも、父親と相性が合わなかったんだ。考え方とかがね。だから、縛られてる所から逃げ出した。兄さんは喫茶店に雇ってもらっていたらしいけど、僕は居候させてもらってるんだ」

 翡翠と同等のような感じがした。

「何処に?」

「探偵事務所。薫さんって人に色々支えてもらってるよ」

 まるで有名なあのアニメのような話である。

「悪くないの? その薫さんって人に」

「大丈夫だよ。僕の友達だって言ったら、許してくれると思う」

 軽く言う海人だが、赤の他人に生活費をまかなってくれる心の広い人間はそうはいない。幸運だったな、と感心する。

「……まぁ、それもいいかもね。分かったよ、ちょっと考えとく。でも。これが成功してからの話だから、時間はものすごくかかるよ」

 頷く海人。翡翠は溜め息をつき、朝食に手を伸ばした。

 ものすごくかかる……とはいっても、もしかしたら後数日で終わってしまうかもしれない。タイミングを逃せば、また来年のクリスマス。

 その日。干渉が強くなるはずだ。

「問題は、どうやって話すかだよ。私の身体を使うんだから、どうしても私が喋っているようになっちゃうし、途中で体力使いはたしちゃうかもしれないし、もしかしたら乗り移ったまま、そのままとかもありうるわけだし」

「朝霧君には?」

「言ってないよ」

「報告しておけば、その時に楽なんじゃないかな」

 提案には賛成だが、今は動く気分になれない。

「海人。朝霧連れてきて」

「……分かったよ」

 苦笑いを浮かべる海人に翡翠も一番の笑みを贈った。


 タイミングは一回。翡翠も、花狩も覚悟を決めなければならない。お互いに少しでも相手に気を遣えば、押しつぶされてしまう。

「……ラブコールとか……噂になってるけど」

 実際、自殺援助だとかなんとかで騒がれてるだけだったが。その主犯は確か二十代の青年だったらしい。

「……姉原……」

 呟いて、顔をうずめた時だった。


「翡翠ちゃん」

 海人の声が、震えていた。





「朝霧君が……連れて行かれた……」