複雑・ファジー小説

Re: 【キャラ】Love Call【募集中】 ( No.45 )
日時: 2011/09/03 22:26
名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)

 静かに、受話器を取ってみた。

 気持ちのいい、朝だった。景色は一面銀色で、朝日がそれに反射し、きらきらと光っている。

 今日は、クリスマス。

 街中、サンタとトナカイと、はしゃぎまわる子供で埋め尽くされた午前は、とても、嬉しい気持ちにしてくれた。

 そっと、電話のボタンを押す。


「もしもし? 私、翡翠だよ。うん、元気だよ、そっちは大丈夫? 朝霧は常に薫さんに狙われてんだから、注意しておいてよ。

 生活はもう慣れた? 大勢でわいわしてるみたいだからね。そりゃ騒がしいもんね。家事とか誰がしてるの? あぁ、そっちには海人がいたか。

 姉原と先生は元気? うん、仲良しだもんね。あ、変わらなくてもいいから。実はね。私ももうそろそろそっちに行こうと思ってる。だって楽しそうじゃん、こっち、全然楽しくないもん」

 長い会話。ずっと笑いながら話してみた。

「それじゃ、また、会おうね」


 繋がっていない受話器を置く。

 送信もされていない会話。


 無理やり引き剥がした固定電話を翡翠は足元に投げた。

 病院の病室は、あまりにも退屈すぎた。




「じゃ。行ってきまーす」




 彼女がいなくなった病室には。

 安っぽく、強い薔薇の匂いが、残されていた。

 僕は、それを見て、満足げに笑う。

 ラブコールを使った彼女が最後に見た者は何だったのか。

 それは、自分にも分らないが。

 それでも、彼女の頬笑みは、忘れられないと思う。

「行ってきます……」





 残り香は、凪いだ風に、かき消されていった。